遺産分割の流れをチャート図付きでわかりやすく解説
身近な方が亡くなってしまい、これから初めて相続手続きに臨むけれど、どのように進めればよいか見当がつかず、慌てて調べ始めたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
相続方法は自分が相続の当事者であることを知ったときから3か月以内に決めなければなりませんし、相続税の申告が必要な場合は、被相続人の死亡を知った翌日から10か月以内に申告しなければなりません。相続手続きを進める中で思わぬトラブルや争いが起こり、思っていた以上に時間がかかることもあるでしょう。そのため、まずは遺産分割の流れを把握して、できる限り速やかに相続手続きを始めるのが賢明といえます。
今回は、遺産分割の流れと、それぞれの段階の概要や進め方について解説します。
【 目次 】
遺産分割の流れ
まずは遺産分割について全体の流れを知っておきましょう。
遺産分割の流れは基本的に下図の通りです。
それぞれの段階について、詳しく解説していきます。
まずは遺言があるか確認
最初に遺言書があるかどうかを確認しましょう。有効な遺言書があれば、その内容通りに遺産分割すれば問題ありません。
ただし、遺言書の有効性を確認する必要があります。
自筆証書遺言の場合は、民法第968条で定められた下記の要件を満たしていない場合は無効となります。
-
遺言書全文が被相続人本人の自筆によるものである
-
遺言書を作成した日付の記載がある
-
氏名の記載があり、押印されている
-
訂正箇所がある場合は、訂正印、および欄外に訂正箇所についての記載がある
上記の要件を満たしていない場合、遺言書は無効となるため、遺産分割協議によって相続手続きを進めなくてはなりません。
また、被相続人が認知症を患っているなど、本人に意思決定能力があるかどうか疑わしい状況で作成された遺言も、その有効性が問題となります。相続人同士で話し合っても解決の目処が立たない場合は、裁判所に遺言無効確認訴訟を提起して解決を図ることとなります。
遺言書の内容が、特定の相続人に全ての財産を相続させるなど、不平等な遺産分割を指示するようなもので、その他の相続人が遺留分さえもらえないこともあるかもしれません。その場合は、遺留分侵害額を請求することで遺留分相当額を取得することができます。
遺留分について詳しく知りたい方は下記ページをご参照ください。
参考記事:遺留分とは
手順①相続人調査
遺言書が残されていなかった場合は、遺産分割協議を行うこととなります。
しかし、いきなり協議を始められるわけではありません。
まずは、相続人調査を行い、相続人を特定する必要があります。
1.相続人の調査方法
「相続人くらい把握しているから戸籍を取り寄せなくても大丈夫!」と思われている方が多くいらっしゃいますが、戸籍の収集による相続人調査を省略してはいけません。後から把握していない相続人の存在が判明し、完了したはずの相続手続きを最初からやり直さなければならないこともあるのが実情です。
まずは、きちんと戸籍の収集をして、相続人を確定しましょう。具体的なやり方については、下記ページをご参照ください。
参考記事:戸籍収集による相続人調査の基礎知識と相続までの手順
2.相続関係図を作成するとわかりやすい
相続人調査が完了したら、相続人の関係図を作成するとわかりやすくなります。
相続関係図とは、被相続人と相続人らとの関係を図にした家系図のようなものです。相続関係図を作成することで、視覚的に相続人が誰であるかを捉えやすくなり、抜け漏れを防ぐことにつながります。
相続関係図の作成方法や詳しい内容については、下記ページをご覧ください。
3.消息不明の相続人がいる場合
連絡が取れない消息不明の相続人がいる場合、その方抜きで遺産分割協議を進めるわけにはいきません。消息不明の相続人を探した上で、見つからない場合は相応の手続きを取ってから協議を進める必要があります。
住所も電話番号もわからない場合は、戸籍附票を取得してみましょう。戸籍附票とは、本籍地のある市区町村で管理されているもので、そこに本籍を置いたときから現在、または転籍するまでの本人の住所地が記載されています。
戸籍附票によって住所がわかれば、手紙を送るか、その住所地まで足を運んでみましょう。
戸籍附票に記載の住所地に住んでいる形跡がなく、連絡もつかない場合は、行方不明者として認めてもらうための手続きが必要です。家庭裁判所に不在者財産管理人選任の申立てを行い、行方不明の相続人の代わりに遺産分割協議に参加してもらうことで協議を進めます。
行方不明者がいる場合の対処法について詳しく知りたい方は、下記ページをご覧ください。
参考記事:行方不明者がいる場合の遺産分割
手順②財産調査
遺産分割をするためには、分配する遺産の内容を確認しなくてはなりません。遺産の内容は、次のステップである相続方法の決定にも大きく関係します。
プラスの財産だけでなく、負債などマイナスの財産についても、しっかり調査しておきましょう。
1.財産調査の方法
財産調査の方法は主に下記の三つがあります。
-
預金通帳の確認
-
郵便物のチェック
-
遺品の調査
一つめは被相続人の預金通帳を確認することです。預金残高を確認するだけでなく、お金の流れを知ることで収支を把握できることがあります。固定資産税の引き落としがあれば不動産を所有していることがわかりますし、配当金の振り込みがあれば株式を持っていることがわかるでしょう。被相続人がどのような資産を持っているのか推測するのに有効です。
二つめは被相続人宛てに届く郵便物をチェックすることです。請求書が届けば負債の存在を知ることができますし、銀行や市役所からの郵便物により、財産に関する情報を得られるでしょう。
三つめは遺品の調査をすることです。キャッシュカードやクレジットカード、各種契約書の他、金融機関からのリーフレットも確認しましょう。貸金庫のリーフレットがあれば、貸金庫を利用していた可能性がありますし、ローンの案内があれば、債務があるかもしれません。
財産調査の方法などについては下記のページで解説しましたので、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
2.財産目録を作成する
被相続人の財産が全て確定したら、財産目録を作成しましょう。
財産目録を作成することで、遺産総額が明らかになり、採用すべき相続方法を判断することができます。
また、相続税を申告する際にも必要となりますので、特に遺産総額が大きい場合は作成しておくとよいでしょう。
財産目録の作成方法や注意点については下記のページで解説しましたので、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
参考記事:財産目録とは?作成方法や注意点を解説
手順③相続方法を決定
財産調査を終え、遺産総額が確定したら、相続方法を決定します。
相続方法は熟慮期間内に決めなければなりません。熟慮期間とは自分が相続人であることを知ったときから3か月です。
相続方法には、単純承認・限定承認・相続方法の三つの方法があります。以下ではそれぞれの相続方法がどのようなものか説明します。
1.単純承認
プラスの財産も負債などのマイナスの財産もすべて相続する方法です。単純承認をする場合、手続きは特に必要ありません。何もしないまま熟慮期間である3か月が経過すれば、自動的に単純承認を選択したとみなされます。
単純承認について詳しく知りたい方は、下記のページをご覧ください。
参考記事:相続の単純承認とは・不本意な相続をしないための基本知識を解説
2.限定承認
限定承認は、マイナスの財産の方が多い場合に、被相続人の残したプラスの財産の範囲内で返済する手続きです。
財産調査をしても、プラスとマイナスの財産ではどちらの方が多いのかわからない場合や、マイナスの財産の方が多いが、不動産などどうしても相続したい財産がある場合に検討するとよいでしょう。
限定承認をするためには、熟慮期間内に家庭裁判所に申し立てる必要があります。
ただし、限定承認は手続きに時間がかかる上、裁判所が受理した後の手続き方法も複雑であるため、実際にはあまり選択されません。限定承認をしたい場合は、遺産相続に詳しい法律の専門家に相談し、よく検討することをおすすめします。
限定承認について詳しく知りたい方は、下記のページをご覧ください。
参考記事:相続の限定承認は手続きが煩雑!それでも選ぶべき場合とは
3.相続放棄
相続放棄は、プラスの財産もマイナスの財産も含めた全ての財産の相続権を放棄する方法で、一般的に以下のような場合に選択されることが多いです。
-
プラスの財産よりもマイナスの財産の方が明らかに多い場合
-
他の親族と関わりたくなく、遺産分割協議にも参加したくない場合
-
特定の相続人だけに相続させたい場合
相続放棄を選択したい場合、熟慮期間内に家庭裁判所に相続放棄の申述の申し立てを行う必要があります。
相続放棄の申述が一度受理されると撤回はできません。本当に相続放棄をして問題ないのか、よく検討した上で選択するようにしましょう。
相続放棄について詳しく知りたい方は、下記のページをご覧ください。
手順④遺産分割協議
相続人が確定し、財産調査も終えたら、相続関係図と財産目録をもとに、相続人全員で遺産分割協議を行います。話し合いでまとまった内容は遺産分割協議書に記載すれば終了です。
1.遺産分割協議は相続人全員で
遺産分割協議は必ず全員で行わなくてはなりません。相続人の中に一人でも欠けている方がいれば、その協議は無効となります。一人を除いた全員の意見がまとまって遺産分割協議書の作成まで終えていたとしても、始めからやり直さなくてはならないのです。
また、相続人の中に認知症を患っている人や未成年者がいる場合は、適切な対処をしなければなりません。具体的な対処法について説明します。
①相続人の中に認知症の人がいる場合
認知症を患っている相続人がいる場合は、成年後見制度の利用を検討することとなるのが一般的です。意思決定能力や判断能力のない相続人に代わって、後見人が代理で遺産分割協議に参加します。
しかし、成年後見制度は一度利用すると一生涯利用し続けなければなりません。さらに弁護士や司法書士など親族以外が後見人に選任されてしまうと、年間数十万円の費用がかかります。経済的に不安がある場合は、別の方法を模索した方がよいでしょう。
相続人の中に認知症の人がいる場合は、専門家に相談して対処法を検討することをおすすめします。
相続人の中に認知症の人がいる場合の対処法については下記のページで詳しく解説しましたので、参考にしていただければと思います。
参考記事:認知症の方の遺産分割
②相続人の中に未成年者がいる場合
未成年の相続人がいる場合は、特別代理人を選任して遺産分割協議を進める場合が多いでしょう。
未成年は単独で法律行為を行うことができないため、遺産分割協議にも参加できません。その場合、代理人が遺産分割協議に参加することとなります。
通常なら、未成年の代理人には保護者がなるものです。しかし、相続手続きでは親も相続人であることがほとんどで、この場合、利益相反の関係となってしまうため、親は代理人になれません。そのため、相続とは関係のない特別代理人を選任する必要があるのです。
相続人の中に未成年がいる場合の対処法については下記のページで詳しく解説しましたので、参考にしていただければと思います。
参考記事:未成年者の遺産分割
2.遺産分割協議書の作成
遺産をどのように分割するかが決まったら、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書とは、協議を経て合意した内容をまとめたもので、預金口座の解約や不動産の売却など被相続人の財産を処分する際に必要となります。
遺産分割協議書の作成には、相続人全員の署名・押印のほか各自の印鑑証明書の添付が必要です。相続人の人数分同じものを用意し、各自が1通ずつ所持することとなります。
遺産分割協議書は必ず作成しなくてはならないわけではありません。
遺産分割協議書の作成が必要なのは、以下の場合のみです。
-
法定相続分とは異なる分割を行う場合
-
遺言書に記載されていなかった財産が存在する場合
法定相続分通りに分割する場合や、財産が遺言に記載された分しかない場合は作成する必要はありません。
手順⑤遺産分割調停
相続人同士で遺産分割協議を行っても話がまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てて解決を図ります。
調停手続きとは、裁判官の他に調停委員という専門家が間に入って、改めて話し合いを行う手続きです。調停委員が、各当事者の話をヒアリングし、法的な観点から、全員が合意できる内容を提案してくれます。
調停が無事成立した場合は、調停手続きで合意した内容は調停調書にまとめられ、裁判所から交付されます。
手順⑥遺産分割審判
調停手続きを経ても、話がまとまらず調停が不成立となった場合は、自動的に審判手続きへと移行します。
審判手続きとは、客観的証拠や法律を根拠に、当事者それぞれの主張を判断し、裁判所が遺産分割内容を決定する手続きです。審判が下された後は、その内容を記載した審判調書が裁判所より交付されます。
審判調書の内容に不服がある場合は、2週間以内に即時抗告を申し立て、再審理を求めることができます。
手順⑦遺産の分割
遺産分割が無事まとまったら、実際に遺産を分割します。
不動産や預貯金などの財産を分割せずに名義変更をする場合は、こちらをご参照ください。
参考記事:不動産の相続手続き?土地・建物の名義変更の方法と必要書類
参考記事:預貯金の相続手続き?銀行口座の名義変更の方法と必要書類
まとめ
今回は、遺産分割の流れと、それぞれの段階の概要や進め方について解説しました。
有効な遺言がある場合を除き、相続手続きはなかなか時間がかかるものです。相続人調査や財産調査に時間を要することや、遺産分割協議で一向に話がまとまらないこともあるでしょう。
しかし、相続手続きには期限があるため、悠長に構えているわけにはいきません。遺産分割の流れを把握して、やるべきことがわかったら早々に行動に移しましょう。
また、途中でトラブルが発生した場合や判断に迷った場合は、早めに遺産相続に精通した法律の専門家を頼ることをおすすめします。
遺産分割の方法について