遺留分とは最低限保障されている遺産取得額|計算方法や請求方法も解説

相続が発生した際に、遺産をほとんど分割してもらえないと不満が募るものです。そんなときに「遺留分」というものがあると知り、

「遺留分とは、どのようなものなのか詳しく知りたい」

「自分の場合、遺留分としてどれくらいの金額を請求できるのか知りたい」

と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

遺留分とは法律上、最低限保障されている遺産取得額のことです。特定の相続人に財産の全てを譲ると遺言書に記載されていたとしても、直系卑属または直系尊属にあたる相続人であれば遺留分を取得できます。

 

今回は、遺留分の概要、法定相続分との違い、遺留分侵害額の請求方法、遺留分侵害額請求の時効などについて解説します。

 

遺留分とは

まずは、遺留分の概要、遺留分を請求できる相続人の範囲について説明します。

 

1.最低限保障されている遺産取得額

遺留分とは、民法で保障されている最低限相続可能な遺産の割合のことです。

遺言によって相続方法や相続割合が指定されていても、遺言の内容通りに相続すると遺留分よりも少ない額の財産しか取得できない場合は、遺留分侵害額請求をすることができます。遺留分侵害額請求により、遺留分に相当する財産は必ず取得できるのです。

 

2.遺留分を請求できる人とは

遺留分を請求できる相続人は限られています。請求できる相続人、請求できない相続人を下の表にまとめました。

 

遺留分を請求できる相続人 ・配偶者
・直系卑属(子どもや孫など)
・直系尊属(親や祖父母など)
遺留分を請求できない相続人 ・兄弟姉妹
・欠格や廃除のあった者
・相続放棄をした者

 

相続人であっても、被相続人の兄弟姉妹は遺留分の請求をすることができません。

 

また、相続において民法第891条で定められているようなトラブルを起こした欠格者や、被相続人に対して民法第892条で定められた仕打ちをして廃除された人は、相続権自体がないため、遺留分の請求もできません。

 

民法第891条(相続人の欠格事由)

次に掲げる者は、相続人となることができない。

一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者

二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。

三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者

四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者

五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

 

民法第892条(推定相続人の廃除)

遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

 

3.遺留分が請求できる場合

遺留分を請求できるのは、以下のような場合です。

  • 遺言による遺贈があった場合
  • 死因贈与があった場合
  • 生前贈与があった場合

 

死因贈与とは、被相続人の死亡を原因としておこなわれる贈与のことです。遺言による遺贈が、被相続人の意思だけで成立するのに対し、死因贈与の場合は贈る側の意思だけでなく、受け取る側の相続人の意思も必要となり、贈与契約として扱われます。

 

また、生前贈与については2018年7月の民法改正によって、遺留分の請求が可能なのは相続開始前10年間の贈与に限られることとなりました。被相続人が死亡する10年以上前の贈与については、遺留分の請求はできません。

 

4.遺留分の計算方法

遺留分は以下の手順で計算します。

 

①総体的遺留分を求める

まず、遺産総額に対して遺留分がいくらになるかという、総体的遺留分を求めます。

総体的遺留分は、遺産総額に対して次の割合を乗じて算出します。

 

【総体的遺留分の割合】

  • 相続人に配偶者や直系卑属(子どもや孫)が含まれる場合:遺産総額の2分の1
  • 相続人が直系尊属(両親や祖父母など)のみの場合:遺産総額の3分の1

 

総体的遺留分=遺産総額×総体的遺留分の割合

 

②総体的遺留分を法定相続分どおりに分割

算出された総体的遺留分を、法定相続分通りに分割した額が遺留分となります。

 

③遺留分計算の具体例

例えば、相続人が配偶者と子ども2人の合計3人である場合を考えてみましょう。

この場合、総体的遺留分は2分の1です。

これを法定相続分通りに分けると、配偶者は2分の1を取得できるので、1/2×1/2で、遺産総額の4分の1が遺留分となります。

 

一方、子どもは法定相続分通りに分けると、総体的遺留分の2分の1をさらに2人で分けることとなるので、1/2×1/2×1/2で、遺産総額の8分の1の金額を遺留分として請求できることとなります。

 

実際には遺産総額の算出が複雑であることも多く、遺留分がいくらになるのか計算することが難しいことも少なくないでしょう。よくわからない場合は、遺産相続に詳しい法律の専門家に相談することをおすすめします。

 

遺留分とは法定相続分と異なるもの

遺留分と法定相続分を混同している方も多いようですが、遺留分と法定相続分は異なります。

 

法定相続分とは、民法で定められた相続分割合のことです。しかし、これは必ずその通りに分割しなくてはならないというものではありません。遺言がある場合は、遺言の内容に従って分割しなければなりませんし、遺産分割協議を経て相続人全員の合意の下、相続割合が決まった場合は、その合意内容に従って分割すれば問題ありません。

 

また、次のような相続順位があり、上位の相続人が存在するなら、それより下位の相続順位の方は相続人にはなれません。

 

必ず相続人となる 配偶者
第1順位 直系卑属(子どもや孫など)
第2順位 直系尊属(両親や祖父母など)
第3順位 兄弟姉妹

 

つまり、被相続人に子どもがいる場合は、相続人は配偶者と子どもとなり、両親や被相続人の兄弟姉妹は相続人にはなれないのです。

 

また、法定相続分の割合は次の通りです。

配偶者以外の相続人は、表に記載した割合をさらに人数分で等分することになります。

 

  配偶者 直系卑属
(子どもなど)
直系尊属
(親など)
兄弟姉妹
配偶者のみ 1      
直系卑属のみ   1    
直系尊属のみ     1  
兄弟姉妹のみ       1
配偶者と直系卑属 1/2 1/2    
配偶者と直系尊属 2/3   1/3  
配偶者と兄弟姉妹 3/4     1/4

 

これに対して遺留分とは、不平等な遺産分割が行われた結果、著しく低い割合しか遺産を取得できなかった場合に用いるもので、最低限保障されている取得額のことです。

 

前述した通り、遺留分を請求できる相続人には限りがあり、直系卑属と直系尊属のみ請求可能です。

 

また、遺留分の遺産総額に対する取得割合は以下のとおりです。なお、配偶者以外の相続人の場合は、表にある割合をさらに人数分で等分することになります。

 

  配偶者 直系卑属
(子どもなど)
直系尊属(親など)
配偶者のみ 1/2    
直系卑属のみ   1/2  
直系尊属のみ     1/3
配偶者と直系卑属 1/4 1/4  
配偶者と直系尊属 1/4   1/6

 

法定相続分と遺留分とでは性質も取得割合も異なるのです。

 

遺留分侵害額の請求方法

実際に取得した相続財産が遺留分相当額よりも少ない場合は、遺留分侵害額の支払いを求めます。以下の流れで進めるのが一般的でしょう。

 

1.まずは当事者同士で話し合い

まずは当事者同士で話し合ってみましょう。特に普段から付き合いのある親族なら、話し合いによって円満に解決することが望ましいでしょう。相手に納得してもらえるように説明できるか不安な場合は、専門家に相談して、何を話すべきなのかアドバイスを受けて話し合いに臨むのもよいでしょう。

 

普段から疎遠で話しづらいという場合は、文書やメールでやり取りをしてもかまいません。郵便やメールなどで伝えれば、やり取りの内容が残るため、トラブルに発展した場合に証拠として使えます。

 

2.話し合いがまとまらなければ調停

当事者同士で話し合っても、一向に解決しない場合は裁判所の力を借りましょう。

家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てて解決を図ります。調停とは、裁判官の他に調停委員という専門家が当事者の間に入り、全ての当事者が納得する着地点が見つかるよう調整を行う手続きです。

 

遺留分侵害額の請求調停の申し立て方法などについては、裁判所のホームページで詳しく説明されています。実際に申し立てをする際は、以下のページを参照しながら準備を進めるとよいでしょう。

参考:裁判所「遺留分侵害額の請求調停」

 

3.調停不成立なら遺留分侵害額請求訴訟

調停手続きを経ても合意に至らなかった場合は、裁判所に判断してもらうことになります。地方裁判所に遺留分侵害額請求訴訟を提起しましょう。訴状や証拠を準備して裁判所に提出します。

調停手続きは比較的簡単なので、自分で行うこともできますが、訴訟は作成すべき書類も多いため、不慣れな方が自分で行うのは大変です。スムーズに進めるためには、法律の専門家に相談することが望ましいでしょう。

 

遺留分侵害額請求は時効に注意

 

遺留分侵害額請求をしたい場合は、早めに行動しなければなりません。遺留分侵害額請求には時効があるからです。

遺留分侵害額請求をする場合の時効と、時効を中断する方法について説明します。

 

1.遺留分侵害額請求の時効

遺留分侵害額請求の時効は、相続が開始したこと、さらに遺留分の侵害があったことを知ってから1年です。ここでいう「遺留分の侵害があったこと」とは、特定の相続人に対し、遺言による遺贈や生前贈与があって不公平な遺産分割が行われたことを指します。

 

時効は、その時点から1年ということになりますが、1年という時間は十分長いようで、短いものです。

特に身近な親族が亡くなった後は、法要などの行事や後片付けで忙しく、あっという間に時間は過ぎてしまいます。遺留分の侵害があったことを知ったら、できる限り早急に行動した方がよいでしょう。

 

遺留分侵害額請求権を失う期間として、時効の他に、除斥期間があります。これは請求権を行使可能な期間のことで、遺留分侵害額請求の場合は相続の開始から10年です。

例えば、相続人が被相続人の親族と疎遠であったり行方不明であったりして、被相続人が亡くなり、相続の開始から10年以上経過した後に遺留分の侵害があったことを知ったとしても、除斥期間を経過しているため、請求はできません。

 

2.時効を中断するには

遺留分侵害額請求の時効は、実際に遺留分侵害額の請求権を行使することにより中断することが可能です。

遺留分侵害額の請求権を行使するといっても難しいことはなく、遺贈や生前贈与などによって多額の遺産を取得した相続人に対して、遺留分侵害にあたる分を支払うように伝えるだけで十分です。

請求方法は口頭でも文書でも問題ありませんが、将来、争いに発展した時のために文書で請求した方がよいでしょう。

また、文書の場合、普通郵便やメールという手段も考えられますが、相手が受け取っていないなどと言い逃れできないよう、内容証明郵便を利用するのが望ましいところです。内容証明郵便とは、郵便局が、誰が、誰に、いつ、どのような内容の文書を送ったのかということを証明してくれるサービスで、配達証明サービスも付与しておくことで相手が受け取ったことも確認できます。

ただし、内容証明郵便で送る文書はいくつかの決まりに則って作成する必要があります。利用する際は下記ページを参照の上、作成するようにしましょう。

 

※参考:郵便局ホームページ「内容証明 ご利用の条件等」

 

また、インターネットによる電子内容証明サービスなら、郵便局窓口に行かなくても24時間いつでも受け付けてもらえるので便利です。

 

※参考:郵便局ホームページ「e内容証明(電子内容証明)」

 

まとめ

今回は、遺留分の概要、法定相続分との違い、遺留分侵害額の請求方法、遺留分侵害額請求の時効などについて解説しました。

 

不公平な遺産分割があった場合に、遺留分侵害額を請求することで、他の相続人の不満が少しは解消されることもあるでしょう。

ただし、遺留分侵害額請求には時効があるので、遺言による遺贈や生前贈与により、不公平な遺産分割があったことを知った場合はできる限り早めに動くことが大切です。

 

また、「遺留分侵害額の具体的な金額がわからない」、「どのように請求すればよいのかわからない」という場合は、専門家に相談することをおすすめします。