相続人に未成年がいる場合は特別代理人の選任が必要!ケース別の対処法

親族が亡くなると、悲しみに暮れる間もなく早々に相続人達で遺産分割協議を始めなければなりません。

遺産分割協議を進めようとしたところ、相続人の中に未成年がいることに気づき

「未成年がいる場合、どうすればよいのだろう?」

「未成年を除いて、大人だけで話し合いを進めてもよいのだろうか?」

などと疑問に思われる方もいらっしゃるでしょう。

 

相続人に未成年がいる場合、本人は遺産分割協議には参加できません。未成年が単独で法律行為を行うことは法律によって認められていないからです。そのため、未成年が遺産分割協議など相続手続きを行うためには、原則として特別代理人を選任することになります。

 

今回は、相続人に未成年がいる場合のケース別の対処法、相続人に未成年がいても特別代理人が不要な場合、特別代理人選任申立の手続きなどについて解説します。

 

相続人に未成年がいる場合は特別代理人を立てる

未成年は単独で法律行為を行うことはできません。そのため、相続という法律行為を行わなければならない場合は代理人を立てる必要があります。通常の法律行為であれば、親権者である親が法定代理人として代わりに行うことがほとんどです。

しかし、相続においては、親も同時に相続人になるケースがほとんどで、子どもとは利益相反の関係となるため代理人にはなれません。利益相反の関係とは、ある法律行為を行うことで、一方にとっては利益となりながら、もう一方にとっては不利益になってしまうような関係のことをいいます。

例えば、父親が死亡した場合、相続人である母と未成年の子どもは遺産分割協議などにおいて、実際はどうであれ外形的には利害関係が衝突します。このような関係を利益相反関係といい、遺産分割協議の結果が子どもにとって不利なものとならないよう、裁判所に申し立てを行い、特別代理人の選任を受けることになるのです。

 

特別代理人には、相続の当事者でなければ誰でもなることができ、特別な資格も必要ありません。一般的には、相続人ではない叔父や叔母などの親族が選任されることが多いでしょう。また、特別代理人が有している代理権は限定的で、遺産分割協議や手続き書類の記入、捺印など家庭裁判所で決められた範囲内でしか代理行為はできません。

 

こんな場合はどうなるの?ケース別対処法

相続人に未成年の子どもが含まれる場合、原則として特別代理人を立てることになります。

しかし、未成年の子どもが複数いる場合や相続人が未成年しかいない場合、親が離婚している場合など、実際に対応する際に、特別代理人は何人必要なのか、親が代理人となってはいけないものなのかなどという疑問が生じるケースも少なくないでしょう。

ここでは、具体的なケースごとの対処法について説明します。

 

1.相続人が親と未成年の子どもの場合

相続人が親と未成年の子どもの場合は、子どものために特別代理人を選出する必要があります。また、未成年の子どもが複数いる場合は、それぞれに特別代理人を立てなければなりません

 

例えば、両親と子ども二人(子ども1、子ども2)の4人家族で、父親が亡くなったケースを考えてみましょう。

この場合、相続人は母親と子ども1、子ども2の3人です。母親と子ども1、子ども2の関係は利益相反の関係になるため、特別代理人を選任しなければなりません。さらに、子ども同士も利益相反の関係になるため、それぞれの子どもに特別代理人を立てる必要があります。

そのため、この場合の遺産分割協議は、母親と特別代理人2名の合計3名で行うことになります。

 

2.相続人が未成年の子どものみの場合

相続人が未成年の子どものみの場合は、親が代理人となれます。親が相続人に含まれていないので、子どもと利益相反の関係になることがないからです。

 

子どもが一人しかいない場合なら、親が代理人となれるので、特別代理人の選任をする必要はありません。一方、子どもが複数人いる場合は、親の代理権は一人にしかないため、他の子どもについては特別代理人を選任する必要があります

 

例えば、父親が既に他界しており、母親と未成年の子ども二人の三人家族で、父方の祖父が亡くなり、相続が発生したとしましょう。

父親が一人っ子で、父方の祖母も既に他界していたとする場合、相続人は子ども二人のみとなります。子どもは未成年であるため、それぞれに代理人を立てる必要がありますが、このケースでは、母親がどちらかの法定代理人になることができます。母親は相続の当事者ではないため、子どもと利益相反の関係にはならないからです。どちらか一方にだけ特別代理人を立てるだけで済み、遺産分割協議は母親と特別代理人の二名で行うことになります。

 

また、不幸にも両親ともに亡くしてしまったり、離婚家庭で親権者である親を亡くしてしまい、さらに残るもう一方の親が親権者に適していなかったりするなど、未成年の子どものみが残されてしまった場合は、家庭裁判所に、特別代理人ではなく、未成年後見人選任の申立を行うことになります。

未成年後見人と特別代理人との違いは、特別代理人は代理権が限定的であるのに対し、未成年後見には基本的に親権者と同じ権利義務があり、広く代理権を行使できることです。遺産相続だけに限らず、子どもが成人するまで、子どもの監護や財産管理、契約関係などの法律行為を子どもに代わって行うことができます。

 

3.未成年の子どもが相続人で親が離婚している場合

両親が離婚している場合で、どちらかの親が亡くなってしまった場合も、相続人は子どものみになります。さらに子どもが未成年である場合には、代理人を立てる必要があります。

親権を持つ親が健在なら、親が法定代理人となれますが、子どもが複数人いる場合は、自分が法定代理人となる子ども以外についてはそれぞれに特別代理人を立てる必要があります。

 

また、両親が離婚しており、親権者であった親が亡くなってしまった場合は、残ったもう一方の親が親権者変更の申立てを行い、子どもの親権を獲得してから遺産分割協議や相続手続きを行うことになります。

この場合、両親は既に離婚しているため、残った親は相続人にはならないので、子どもと利益相反の関係にもなりません。親権者が子どもの法定代理人として遺産分割協議を行うことができます。

また、子どもが複数人いる場合は、自分が法定代理人となる子ども以外について、それぞれに特別代理人を選定する必要があります。

 

4.未成年の子どもが相続人で相続放棄をしたい場合

相続放棄も法律行為なので、未成年の子ども本人が行うことはできません

代理人を立てる必要があり、相続する場合と同様、親が相続の当事者でない場合は法定代理人になることができますが、利益相反の関係にある場合は特別代理人を立てる必要があります。

ただし、既に親が相続放棄をした場合や親権者も未成年の子どもと同時に相続放棄をする場合は特別代理人を立てる必要はありません。親が法定代理人として手続きをすることが可能です。

 

また、既に両親が共に他界している、離婚家庭で残る片親が親権者に適していなかったなどの事情で、相続人に未成年の子どもしかいない場合は、相続の場合と同様に未成年後見人選任の申立てを行います。

さらに、親が離婚しており、親権者が亡くなって相続放棄をしたい場合も、相続の場合と同様です。残るもう一方の親が親権者変更の申立てを行い、相続放棄の手続を行うことになります。

 

相続人に未成年がいても特別代理人が不要な場合

未成年の子どもに特別代理人の選任が必要なケースとは、遺産分割協議などの法律行為を行う必要がある場合です。遺産分割協議を行わず、法律で定められた法定相続分どおりに相続する場合は、特別代理人の選任を申し立てる必要はありません

法定相続分どおりに相続しても、相続財産中に含まれる不動産を売却したり名義変更をしたりといった法律行為は発生しますが、親と子どもは利益相反の関係にはないので、親が子どもの法定代理人として法律行為を行えます。

それぞれの子どもに特別代理人の選任を申し立てる手間もかからないので、スムーズに相続手続きを進められるでしょう。

ただし、法定相続分どおりに相続するのがベストなのかどうかは、個々のケースによって異なるため、相続方法の判断は慎重に行う必要があります。

例えば、相続財産の不動産を法定相続分どおりに相続して持分登記を行えば、子どもにも固定資産税の納税義務が生じることになります。納税を滞ったり、該当不動産を担保とした抵当権が実行されて競売になったりすれば、子どもにまでトラブルが及ぶことになるでしょう。

手間のかかる特別代理人の選任は省略したいけれど、法定相続をしてもよいのか判断がつかない場合は専門家に相談してみることをおすすめします。

 

特別代理人選任申立の手続き方法

裁判所に特別代理人を選任してもらうためには、実際にどのような手続きをすればよいのでしょうか。具体的な手続きの方法について説明します。

 

1.申立人と申立先

親権者も相続人に含まれる場合、子どもの代理人にはなれませんが、特別代理人の選任は行うことができます。

また、親権者が何らかの理由で申立てできない場合は、利害関係人が行うことも可能です。利害関係人とは、直接の当事者ではないものの、法律上の利害関係がある者のことをいい、この場合、親権者以外の他の相続人などが利害関係人にあたります。

 

特別代理人選任の申立て先は、選任を受ける子どもの住所地を管轄する家庭裁判所になります。各地域の管轄裁判所は下記のページで調べられます。

参考URL:裁判所の管轄区域(裁判所公式サイト)

 

2.申立てにかかる費用と必要書類

申立てをするのに必要な費用は、子ども一人あたり800円分の収入印紙と連絡用の郵便切手の代金です。連絡用の郵便切手の金額と内訳は裁判所によって異なるので、管轄の裁判所に問い合わせましょう。

 

また、申立てには以下の書類を提出する必要があります。

  • 申立書

【申立添付書類】

  • 未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 親権者又は未成年後見人の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 特別代理人候補者の住民票又は戸籍附票
  • 利益相反に関する資料(遺産分割協議書案、契約書案・抵当権を設定する不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)等)
  • (利害関係人からの申立ての場合)利害関係を証する資料(戸籍謄本(全部事項証明書)等)

 

参考URL:特別代理人選任(親権者とその子との利益相反の場合)(裁判所公式サイト)

 

未成年者の戸籍謄本と親権者の戸籍謄本が同じである場合、同じ書類を2通提出する必要はありません。

また、申立添付書類が揃わない場合、申立書さえ提出すれば、後から提出する形で受け付けてもらえます。

 

3.特別代理人ができること

特別代理人は家庭裁判所から交付される審判書で定められた行為についてのみ、代理で行えます。特別代理人に代理が認められる行為としては、遺産分割協議への参加や遺産分割協議書への署名や押印、相続登記や相続財産の処分などの相続手続きといった内容が一般的でしょう。審判書に記載のない行為についての代理行為は行えません。

また、裁判所で定められた行為が全て完了した時点で、特別代理人としての任務も終了となります。

 

未成年がいるのに特別代理人を選任しなかった場合

特別代理人の選任手続きは、法律手続きが不慣れな人にとっては少々面倒に感じられるものでしょう。遺産分割内容を子どもにとって不利な内容にすることはないし、特別代理人を選任せずに進めてもよいのではないかと思う方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、特別代理人を選任せずに行った遺産分割協議は、未成年の子が成人した時にその内容を認めない限り無効になります。つまり、成人した子どもが遺産分割協議の内容について不服だといえば、過去に遺産分割協議で決まった内容はすべて無効となり、最初からやり直さなければならなくなるのです。

そのような余計なトラブルを起こさないためにも、相続人に未成年が含まれる場合は、多少面倒でも特別代理人の選任を行うようにしましょう。

 

まとめ

今回は、相続人に未成年がいる場合のケース別の対処法、相続人に未成年がいても特別代理人が不要な場合、特別代理人選任申立ての手続きなどについて解説しました。

 

相続人に未成年がいるなら、基本的に特別代理人の選任申立てを行うことになります。

しかし、未成年の子どもが複数いる場合、相続人が未成年の子どもしかいない場合、親が離婚している場合など、それぞれのケースによって選任すべき特別代理人の数が異なるなど、少々複雑に感じるところがあるかもしれません。

 

また、法定相続分どおりに相続するなら特別代理人の選任は不要となり、シンプルに相続手続きを進められますが、果たしてそれがベストな選択なのかどうかは個々のケースによって異なります。

 

相続人に未成年がいる場合の相続について、少しでもわからないことや判断しにくいことがある場合は、早めに専門家に相談することをおすすめします。子どもにとってベストな選択をしてあげるためにも、専門家からアドバイスを受けることが望ましいでしょう。