行方不明の相続人がいる場合の遺産分割|利用可能な制度と申立方法
「相続人の中に行方不明で連絡が取れない人がいるため、遺産分割協議を進められない」
「相続人の中に行方不明者がいるが、その人抜きで協議を進めてもよいのだろうか」
このように相続人の中に行方不明者がいて、どうするべきかわからずにお困りの方もいらっしゃるでしょう。
遺産分割は必ず相続人全員で行わなければならないものであり、一人でも欠けた状態で遺産分割協議書を作成することはできません。相続人の中に行方不明者がいる場合は、状況に合わせて適切な手続きを経た上で遺産分割協議を進める必要があります。
また、相続税には申告期限があり、遺産分割協議をむやみに先延ばしすることもできません。行方がわからない相続人がいる場合は、可能な限り速やかに適切な対処を行い、早急に相続手続きを進めるようにしましょう。
今回は、相続人の中に行方不明者がいる場合の対処法、不在者財産管理人の申立方法とその後の手続き、失踪宣告の申立方法と手続きの流れなどについて解説します。
【 目次 】
遺産分割は行方不明者抜きには進められない
遺産分割協議は相続人全員で行う必要があることを知っていても、裁判所などに監視されながら遺産分割協議を進めるわけでもないし、行方不明者抜きで行ってもバレないのではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、行方不明者が現れて、遺産分割内容を不満に思い、無効であることを主張すれば、始めからやり直さなければならなくなる可能性もあります。
そのようなことが起こらないよう、相続人の中に行方不明者がいる場合は、相応の手続を行った上で遺産分割協議に臨む必要があるのです。
相続人の中に行方不明者がいる場合の対処法
それでは、相続人の中に行方不明で連絡が取れない人がいる場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。状況別に対処法をご紹介します。
1.消息不明なら戸籍附票で居場所を確認
誰もが連絡先を知らない場合は、まず戸籍附票を取得してみましょう。
戸籍附票とは、本籍地の市町村で保管されているもので、戸籍が作られたときから現在に至るまでの住所が記載されています。本籍地の役場に申請すれば取得できます。
本籍地がわからない場合は、以前住んでいた住所の市町村で住民票の除票を取得すると、わかることもあるでしょう。
ただし、除票の保存期間は、令和元年6月20日に施行された住民基本台帳法の一部改正により150年間となりましたが、それ以前はわずか5年であったため、平成26年6月20日以前に除票となっていた場合は取得できません。その場合は、行方不明者の戸籍を辿ればわかることもありますので、一度専門家に相談してみるとよいでしょう。
戸籍附票によって住所がわかれば、手紙を送ったり現地へ赴いたりするなどして本人と接触を試みます。郵便物が届かず、現地を訪ねても居住している様子がない場合は、完全に行方不明と判断してよいでしょう。
一方、手紙が届いているのに応答がない場合や連絡を拒否された場合は、遺産分割協議を行うことは難しくなります。その場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることを検討するとよいでしょう。
2.完全に行方不明なら不在者財産管理人を選任
行方不明者の居所が全くわからず、連絡のしようもない場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人選任の申し立てをする必要があります。
選任された不在者財産管理人が行方不明者に代わって遺産分割協議に参加することになります。
3.行方不明から7年以上なら失踪宣告
7年以上に渡り行方不明である場合は、失踪宣告の利用を検討するのもよいでしょう。
家庭裁判所によって失踪宣告を受けると、その者は法律上死亡したことになり、遺産分割協議の当事者から外されます。
ただし、失踪宣告を受けるまでには半年以上、長い場合は1年半ほどの時間がかかります。相続税の申告期限が、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月しかないことを考慮すると、相続税が発生する場合は、先に不在者財産管理人を選任してから進めた方がよいでしょう。
どのような方法で対処するのが適切なのかわからない場合は、専門家に相談することをおすすめします。
4.災害などによって行方不明の場合は認定死亡とする
認定死亡とは、災害や事故などが原因で行方不明者が死亡した可能性が極めて高いという場合に、行政機関が死亡を認定することで、死亡を推定する制度です。
認定死亡はあくまで「推定」に過ぎず、生きていることが判明した場合は、特に手続きをしなくても効力が失われます。
不在者財産管理人の申立方法とその後の手続き
相続人の中に行方不明者がいる場合、最も利用されることが多いのが不在者財産管理人の選任手続きです。
実際に不在者財産管理人の選任を利用する際の申立方法やその後の手続きについて説明します。
1.不在者財産管理人とは
不在者財産管理人の主な役割は、その名称の通り、行方不明者の財産を管理することです。
不在者財産管理人に選任されると、不在者の財産を調査した上で、財産目録や管理報告書を作成して裁判所に報告することになります。
不在者管理人になるのに特別な資格は必要ありませんが、その職務を全うでき、かつ、不在者との利害関係がない人物が適格とされやすいでしょう。そのため、利害関係のある相続人は選任されません。近しい人が選ばれる場合は、相続人ではない親族や不在者の友人などになります。
身近に相応しい人が存在しない場合は、裁判所により弁護士や司法書士が選任されることになるでしょう。
2.申立方法と申立費用
不在者財産管理人の選任申立ては、行方不明者の配偶者の他、債権者、相続人などが行うことが可能です。
不在者財産管理人の選任申立ては、行方不明者の住所を管轄する家庭裁判所に対して行います。具体的な管轄裁判所は下記のページで調べることができます。
参考URL:裁判所の管轄区域(裁判所公式サイト)
また、申立を行う際は、以下の書類の提出が必要です。
- 申立書
- 不在者の戸籍謄本
- 不在者の戸籍附票
- 財産管理人候補者の住民票、または戸籍附票
- 返戻された不在者宛ての郵便物、行方不明者受理証明書など、不在の事実を証する資料
- 不在者の所有する不動産登記簿謄本、不在者の通帳写しなど、不在者の財産に関する資料
- 利害関係人からの申立ての場合、戸籍謄本や賃貸借契約書の写しなど、利害関係がわかる資料
申立書は、下記のページからダウンロードできます。
参考URL:不在者財産管理人選任の申立書(裁判所公式サイト)
申立てには800円分の収入印紙代と連絡用の郵便切手代が必要です。収入印紙は申立書の貼付欄に貼り付けて提出します。
連絡用の郵便切手の額と内訳は、裁判所によって異なります。管轄の家庭裁判所の公式サイトで確認するか、掲載されていない場合は裁判所に直接問い合わせてみるとよいでしょう。
3.不在者財産管理人が財産の保存以外のことをするには
不在者財産管理人の主な職務は、不在者の財産の保存です。遺産分割協議への参加など、財産の保存以外のことを行うには「権限外行為許可」という手続きが必要になります。裁判所の許可がなければ、遺産分割協議や不在者の財産の処分等の行為はできませんので注意しましょう。
また、遺産分割協議に参加する場合、財産管理人は不在者の財産を保全、利益を保護するべく主張を行うことになります。そのため、不在者の取得分が法定相続分を下回るような分割内容にすることは難しく、そのような分割内容では裁判所からの許可も得られないことが多いでしょう。
①場合によっては帰来時弁済型の遺産分割を利用する
不在者財産管理人の役割は、不在者の財産の保存ですから、遺産分割協議のために選任したとしても、相続手続きが完了すればそこで任務終了というわけにはいきません。不在者が現れるか、失踪宣告や死亡が確認された時までその責務は続くことになります。終了期限が見えないまま、不在者の財産を保管することは財産管理人にとって負担になることも少なくありません。
そのような財産管理人の負担をなくすために設けられているのが「帰来時弁済」という方法です。
これは、遺産分割において不在者には何も相続させない代わりに、他の相続人が法定相続分以上の金額を不在者のために預かり、不在者が戻ってきた際に相続分を支払います。管理すべき不在者の財産がなくなるため、財産管理人は必要なくなるのです。
しかし、帰来時弁済型の遺産分割は、どんな場合でも認められるわけではなく、以下の三つの要件を満たすことが求められます。
- 不在者が戻ってくる可能性が低いこと
- 不在者に子がいないこと
- 相続する財産が少額であること
不在者の相続分が1000万円など、高額になる場合は認められないことが多いでしょう。
また、不在者の相続分が高額ではない場合でも、不在者分のお金を預かる相続人に十分な資力がなければ、裁判所に認めてもらえません。不在者が戻ってきた場合に、きちんと支払えるだけの資力があるかどうかも許可されるかどうかの判断基準となります。
失踪宣告の申立方法と手続きの流れ
失踪宣告は、行方不明になって生死さえわからなくなってから7年以上経過している場合や、震災や事故などによって行方がわからなくなり、1年以上経過している場合に利用できる手続きです。
相続人の中に行方不明者がいる場合に検討すべき手続きの一つではありますが、失踪の宣告が出されるまで、少なくとも半年以上の時間を要するため、相続税を申告する必要があり十分な時間がない場合など、適さないケースもあります。
そのような場合は、不在者財産管理人を選任した上で遺産分割した後に、失踪宣告の申立てを行うとよいでしょう。
1.申立方法と申立費用
失踪宣告も不在者財産管理人の選任申立てと同様に、行方不明者の従来の住所地や居所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。
申立を行う際は、以下の書類を提出します。
- 申立書
- 不在者の戸籍謄本
- 不在者の戸籍附票
- 返戻された不在者宛ての郵便物、行方不明者受理証明書など失踪の事実を証明できる資料
- 親族の場合は戸籍謄本など申立人の利害関係を示す資料
申立書は下記のページよりダウンロード可能です。
参考URL:失踪宣告の申立書(裁判所公式サイト)
申立てには、収入印紙代800円と連絡用の郵便切手の費用、官報公告費用として4816円がかかります。
収入印紙は申立書の貼付欄に貼り付けた上で提出します。連絡用の郵便切手の金額と内訳は各裁判所によって異なるので、裁判所の公式サイトで確認するか、直接問い合わせてみるとよいでしょう。
2.申立後の手続の流れ
失踪宣告の申立後は、以下の流れで手続きが進みます。
- ①家庭裁判所による調査
- ②失踪に関する届け出の催告
- ③失踪宣告
①家庭裁判所による調査
失踪宣言を申立てた後は、まず家庭裁判所の調査官によって申立人や失踪者の親族に対する調査が行われます。
②失踪に関する届け出の催告
官報公告の掲載や裁判所の掲示板で以下の内容の催告を行います。
- 失踪宣告の申立てがあったこと
- 不在者は一定の期間内にその生存を届け出ること
- 届け出がない場合は失踪の宣告が出されること
- 不在者の生死を知る者は、一定の期間内に届け出ること
一定の期間とは、普通失踪の場合は3ヶ月、事故や震災などが原因で失踪した危難失踪の場合は1ヶ月です。
③失踪宣告
催告期間内に届け出がなければ、裁判所によって失踪の宣告がなされ、申し立てた人に対して審判書謄本が交付されます。
3.失踪宣告後は失踪届の提出が必要
裁判所から失踪の宣告を受けた後は、市町村役場に失踪の届け出をする必要があります。役所への届け出は宣告後10日以内に行わなければならず、届け出の際には裁判所から交付された失踪宣告の審判書謄本と確定証明書が必要です。
確定証明書は裁判所に交付申請をする必要があり、裁判所指定の用紙に150円分の収入印紙を貼付して申請します。
まとめ
今回は、相続人の中に行方不明者がいる場合の対処法、不在者財産管理人の申立方法とその後の手続き、失踪宣告の申立方法と手続きの流れなどについて解説しました。
相続人の中に行方不明者がいる場合は、まず戸籍附票を取得して住所を調査し、郵送などによる連絡を試みることになります。それでも連絡が取れない場合は、不在者財産管理人選任の申立てを行った上で遺産分割協議を行うというのが一般的な手順となるでしょう。
行方不明の相続人の対処法がよくわからない場合は速やかに遺産相続に精通した法律の専門家に相談することをおすすめします。よくわからないまま時間だけが過ぎ、気付いた時には相続税の申告期限が迫っていたなどということがないよう、早めに対処することが大切です。
遺産分割の方法について