戸籍収集による相続人調査の基礎知識と相続までの手順
遺産相続を行う際には、誰が相続人になるのか明らかにする必要があるため、相続人調査を行います。
相続人調査を行うには戸籍収集が必要になりますが、戸籍収集は手間がかかるだけではなく、知識も必要になります。そのため、戸籍収集による相続人調査を適切に行うためには知識や手順を理解しておくことが大切です。
そこで今回は、戸籍収集による相続人調査の基礎知識と相続までの手順などについて解説します。
【 目次 】
戸籍収集による相続人調査とは
まずは、戸籍収集による相続人調査の必要性や、相続人になった場合に行うことについて説明します。
1.なぜ相続人調査が必要なのか?
相続人調査とは、遺産相続において誰が相続人になるのか調査することをいいます。故人が生まれてから死亡するまでの家族関係を調べるために、戸籍収集を行い、相続人を決定します。
身内で相続人を決めるのであれば家族関係がわかっているので、わざわざ戸籍を収集して相続人調査する必要はないと考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、相続にあたって銀行や不動産などの名義変更などを行う場合、相続関係を証明しなければなりません。
客観的に相続関係を明らかにし、相続の手続きを進めるためには、相続人調査が必要なのです。
2.相続人になった場合に行うこと
故人の死亡と同時に、相続が始まります。
相続人になった場合、被相続人の財産を相続するために以下のことを行う必要があります。
- 故人の健康保険の返還
- 公的年金手続き
- 各種名義変更
- 遺言書の有無の確認
- 相続財産の確定
- 遺産分割協議書の作成
- 相続税の申告
このように、さまざまな手続きが必要になるため、相続が開始されたら、できる限り早めに相続人調査を始めることが望ましいでしょう。
戸籍収集による相続人調査の基礎知識
戸籍収集による相続人調査を行うにあたり、最低限理解しておくべき戸籍に関する基本的な知識について説明します。
1.戸籍とは
戸籍とは、生まれてから死亡するまでの身分関係を登録し、公的に証明するためのものです。
各市町村の役場にて管理されており、本人もしくは代理人(委任状が必要)が戸籍謄本を請求することができます。
2.戸籍の種類
戸籍には、戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本の3つの種類があります。
戸籍謄本には現在の情報が記載されていますが、相続人調査では戸籍謄本だけではなく除斥謄本や改製原戸籍謄本が必要になることもあります。
除籍謄本は戸籍内の人が全員結婚や死亡などの理由で戸籍から抜けた場合の戸籍で、改製原戸籍謄本は戸籍の法改正によって使われなくなった古い戸籍です。
3.相続人調査で戸籍収集が必要な範囲
相続人調査で戸籍収集が必要な範囲はケースバイケースですが、以下の戸籍はどのようなケースでも必要になります。
- 故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本類
- 相続人全員分の現在の戸籍謄本
また、故人より先に死亡した子供がいた場合には、その子供の出生から死亡までの連続した戸籍謄本が必要になります。
一方で、故人に子供がいない場合でも、父母や祖父母に死亡者がいる場合と、父母や祖父母が全員死亡している場合では必要な戸籍謄本が異なります。
死亡者がいる場合、死亡の事実が記載された戸籍謄本が必要になります。
全員死亡している場合は、それぞれの出生から死亡までの連続した戸籍謄本が必要です。
戸籍収集による相続人調査から相続までの手順
戸籍収集による相続人調査は、法律の専門家に依頼することも可能ですが、ご自身で進めることもできます。戸籍収集による相続人調査から相続までの手順について説明します。
1.戸籍収集を行う
相続が発生したら、相続人を確定させるための戸籍収集を行います。
まずは故人の戸籍収集を行いますが、死亡時の戸籍から遡って取得していくことが一般的です。
そのため、最初に死亡時の本籍地で戸籍謄本を取得します。その後、取得した戸籍を確認しながら、出生から死亡までの戸籍を全て取得していきます。
ただし、個人が婚姻や引っ越しにより本籍地を移動している場合もあります。その場合には、それぞれの役所で戸籍取得の申請を行わなければなりません。
戸籍は、直接役場に行かなくても、郵送で取り寄せることも可能です。戸籍の取り寄せ方法についてはこちらの記事にまとめましたので、参考にしていただければと思います。
2.相続人を判断する
戸籍収集による相続人調査で最も難しい部分が、相続人の判断です。
遺言状が存在しない場合は、法定相続人のみが相続することができます。
法定相続人とは法律で定められている相続人で、相続順位が決められています。
故人に配偶者がいる場合は配偶者が常に相続人になりますが、配偶者以外は以下の順になっています。
- 第1順位:故人の子供(子供が既に死亡している場合は孫、ひ孫等)
- 第2順位:故人の直系尊属(父母、祖父母等)
- 第3順位:故人の兄弟姉妹(既に死亡している場合はその子)
3.相続人全員の戸籍と必要書類を収集する
相続人を判断した後は、相続人を確定するために相続人全員の戸籍など必要書類を集めます。
この作業は、相続人の人数分行う必要があるため、非常に手間のかかる作業と言えます。
また、住所を確認するために故人と相続人の戸籍の附票や住民票を集める必要がある場合もあります。引っ越しなどで住所が変わっても戸籍内容が変わらないため、戸籍を見るだけでは住所まではわからないからです。
4.相続関係説明図を作成する
相続関係説明図とは、遺産を相続する相続人が誰なのかわかりやすく図にまとめたものです。不動産の相続登記を申請する場合に相続関係説明図が必要になります。
相続登記の申請時に戸籍を提出してしまうと、再度戸籍の収集を行わなければならないため、二度手間になってしまいます。しかし、相続関係説明図を添付すれば、戸籍の原本を還付してもらうことができます。ただし、相続関係説明図には決まった様式があるため、作成するには知識が必要になります。
5.財産目録を作成する
遺産の分割を行うために、財産の一覧表である財産目録を作成します。
現金や預貯金、不動産だけではなく、借金などの債務も財産目録に記載します。
相続が完了した後に財産が見つかった場合には、相続手続きを最初からやり直さなければならないケースもあるため、財産目録には抜けがないように記載することが大切です。
6.遺産分割協議書を作成する
相続人の確定と財産の把握を行った後は、遺産分割を行います。
誰が何を相続するのか相続人間で話し合い、合意した内容を遺産分割協議書に記します。
そして、相続人全員の署名と押印をして印鑑証明書を添付すれば、それぞれの相続人の相続が確定します。
不動産の相続登記などを行う際に、遺産分割協議書を提出する必要があります。
7.相続放棄の申立てを行う
故人の遺産を調査した結果、プラスの財産よりも債務などマイナスの財産が多かった場合には、相続放棄の申立てを行うことができます。相続放棄とは、被相続人の財産を一切相続しないという選択をすることです。
故人の死亡時の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てることで相続放棄を行うことができます。相続放棄には期限があり、相続の開始を知った日から3カ月以内に申立てを行わなければなりません。
8.不動産の名義変更を行う
故人が残した不動産を相続する場合には、所有者の名義変更が必要になります。
登記申請書を作成し、不動産を管轄する法務局に申請を行います。
この時に、戸籍や住民票だけではなく遺産分割協議書が必要となる場合があります。
名義変更を行わないまま時間が経過すればトラブルに発展することも多いため、なるべく早い段階で名義変更を行うようにしましょう。
戸籍収集による相続人調査を専門家に依頼するメリット
戸籍収集や相続人調査はご自身で行うことも可能ですが、法律の専門家に依頼することをおすすめします。戸籍収集による相続人調査を専門家に依頼するメリットについて説明します。
1.相続に関する手続きを全て任せることができる
戸籍収集による相続人調査を行うためには、複数の相続人と連絡を取りながら戸籍収集を行わなければなりません。故人の戸籍だけでも5通以上に渡ることが多く、相続人の人数が多いほど収集に手間と時間がかかります。
また、役所や裁判所へ手続きが必要な場合には、平日しか受け付けていないため、会社員の方は仕事を休む必要も出てくるでしょう。
法律の専門家に依頼すると、戸籍収集による相続人調査だけではなく、相続に関する手続きを全て任せることが可能なので、労力と時間を大幅に省くことができます。
2.正確に手続きを行うことができる
戸籍収集による相続人調査を正確に行うためには、法律の専門知識が必要になります。
戸籍謄本は法改正の度に改訂されているため、知識がなければ出生から死亡までの連続性を確認することが難しく、見落としてしまう可能性もあります。見落としが生じて一通でも戸籍謄本が足りない等の不備があると、相続手続きを進めることができません。
また、相続人の判断やその後の相続に関する手続きにも法律の知識が求められます。
一度相続手続きを行えば、取り消すことができない場合もあります。手続きによっては期限が定められているものもあるため、手続き自体に時間がかかってしまい、失敗してもやり直すことが難しいケースが多いです。
専門知識のある弁護士、司法書士に依頼することにより、正確かつスムーズに手続きを進めてもらうことが可能になります。
まとめ
今回は、戸籍収集による相続人調査の基礎知識と相続までの手順などについて解説しました。
戸籍収集による相続人調査は、非常に複雑であり、時間と手間が必要となる手続きです。
ご自身で行うことも可能ですが、不備なくスムーズに進めたい場合は、法律の専門家に依頼することが望ましいでしょう。
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