財産目録とは?作成方法や注意点を解説

相続が発生すれば、財産を正確に把握して相続人で分割する必要があります。

相続手続きにおいて、財産目録の作成は欠かすことのできない作業です。

しかし、どのような目的のために財産目録を作成する必要があり、どんなことを記載すべきなのかよくわからないという方もいらっしゃるかと思います。

今回は、財産目録を作成する目的や、記載内容、作成方法などについて解説します。

 

財産目録とは

財産目録とは、被相続人の財産の内容を一覧にまとめたものです。

生前からご自身が所有する財産を一覧にまとめているようなケースは少なく、被相続人の死亡後にどのような財産があるのかを全て把握するためには調査をしなければなりません。
そこで、相続財産の調査が行われ、預貯金や不動産などのプラスの財産や、借金などのマイナスの財産を明確にしていきます。
この調査で明確になった財産を一覧にまとめたものが財産目録であり、相続手続きでは重要な役割を果たします。

 

財産目録を作成する理由

財産目録を作成することは、法律で定められているわけではありません。また、税務署から提出を求められることもありません。
それでは、なぜ相続手続きに財産目録の作成が必要なのでしょうか。

 

1.財産を把握することができる

相続手続きにおける相続財産は、非常に幅広い範囲に渡ります。

預貯金や不動産、有価証券、自動車、家財などのプラスの財産だけではなく、相続することでマイナスとなる財産も存在します。マイナスになる相続財産として、借金、住宅ローン、未払いの家賃や税金などが挙げられます。

つまり、被相続人の財産の中には、相続人が相続したくないマイナスの財産も含まれる可能性があるのです。

こうした全ての財産を把握した上で、遺産分割協議を行います。全ての財産を把握できていないと遺産分割協議を進めることができないため、財産目録を作成して全ての財産を把握することは非常に大切です。

 

2.相続放棄すべきかどうか判断できる

相続財産を調査して財産目録を作成した結果、マイナスの相続財産がプラスの相続財産を上回ってしまうケースもあります。そうなると、相続財産を全て相続しなくても構わないと考える方も多いでしょう。

この場合、相続の発生を知った日から3か月以内に裁判所へ申立てを行うことで、相続放棄をすることが可能です。ただし、相続放棄するということは、預貯金や不動産などプラスの財産も全て相続しないことになります。

マイナスの財産だけ相続放棄するということは原則として認められません。そのため、財産目録を作成して相続財産の全体を把握した上で、相続放棄について慎重に検討すべきです。つまり、財産目録は、相続放棄すべきかどうかを適切に判断するためにも役立つのです。

 

3.遺産相続におけるトラブルを避けられる

相続財産の規模に関わらず、遺産相続に関するトラブルは非常に多いものです。
被相続人の財産がどこにどれくらいあるのか相続人達が正確に把握できていないために、遺産分割が進まないというケースもあるでしょう。
また、誰が何を相続したのか明確にならず、相続人同士での争いに繋がってしまうようなケースもあります。

こうした遺産相続のトラブルを避け、公平に遺産分割を行うために役立つものが財産目録です。財産目録があれば、相続人全員が共有して財産全体を把握できるので、安心してスムーズに遺産分割の協議を進められるでしょう。

 

4.相続税の申告の際に必要

相続財産の合計額が基礎控除額を上回る場合、相続税の申告を行わなければなりません。財産目録を作成すると、財産全体を把握した上で相続税の申告の有無を正しく判断することができます。

そして、相続税の申告書には必ず財産目録が必要です。そのため、相続税の申告の必要性を判断してスムーズに手続きを行うためにも、財産目録の作成は必要だと言えます。

 

財産目録に記載する内容

財産目録には、被相続人の全ての財産を記載する必要があります。

財産目録に記載する財産には、下記のようなものが挙げられます。

プラスの財産現金、預貯金、不動産、有価証券、自動車、貴金属、美術品など
マイナスの財産借金、住宅ローン、未払いの家賃、未払いの税金、保証人の立場など

上記のように、プラスの財産とマイナスの財産は分けて記載しましょう。

そして、これらの財産を財産目録に記載する際、財産の内容を特定できるような情報を明記するとよいでしょう。土地や建物、預貯金などで記載するべき情報は以下の通りです。

  • 不動産(土地):所在、地番、地目、地積、持分、路線価、所有者、抵当権の有無、種類など
  • 不動産(建物):所在、家屋番号、種類、構造、床面積、持分、評価額、所有者、抵当権の有無など
  • 預貯金:品目、金融機関、種別、口座番号、金額、取得など
  • 貴金属や美術品:品物の内容、保管場所など

このように財産の内容を特定できる情報を詳しく記載することにより、相続人が把握しやすい財産目録を作成できます。

 

財産目録を作成する際のポイント

財産目録の作成には、決まった書式はありません。

しかし、とりあえず自由に作成したという書類では、相続手続きをスムーズに行うことや、相続税の申告の負担を軽減することが難しくなる恐れがあります。

そのため、財産目録を作成する際には、次のポイントを押さえるようにしましょう。

 

1.相続財産の調査をしっかり行う

財産目録を作成するには、その前に相続財産の調査を行う必要があります。

この調査をしっかりと行わなければ、財産目録を正確に作成することができません。

万が一、遺産分割協議を終えた後に追加で財産が見つかった場合には、遺産分割協議を再び行う必要があります。また、マイナスの財産を見落としたまま相続手続きを進めてしまえば、後から負債の請求をされる可能性もあります

正確な財産目録を作成するためにも、まずは相続財産の調査をしっかりと行うようにしましょう。

 

2.評価額の判断が難しい財産に注意する

財産目録を作成する際、評価額の判断が困難な財産に頭を悩まされる方も多いでしょう。

特に評価額の判断が難しい財産として、不動産や有価証券が挙げられます。

それぞれの注意点についてみていきましょう。

 

①不動産

不動産の場合、土地や建物の価値を評価する必要がありますが、素人では判断することができません。しかし、固定資産税の明細書があれば、固定資産税の評価額を参考にして、おおよその価値を判断することができるでしょう。
不動産は財産の中でも高額になり、相続税の対象になる可能性が高い財産です。
そのため、相続税の対象になる可能性がある場合には、専門家に相談することをおすすめします。

 

②有価証券

有価証券の場合は、日々、金額が変わるため、正確に評価することは難しいです。
上場株式の場合、「死亡日の終値」「死亡日の月の全終値の平均額」「死亡日の前月の全終値の平均額」「死亡日の前々月の全終値の平均額」の4つの内の一番低い株価が用いられます。
しかし、非上場株式の場合は、市場の取引価格が公開されていません。そのため、株式を発行している会社に連絡して確認する必要があります。

 

3.相続財産の所在や数量まで明確に記載する

財産目録を作成する際は、適当に記載せずに、財産の所在や数量などの詳細まで明確に記載することが大切です。
複数の財産がある場合は、細かい情報も記載しなければ財産の特定が困難になってしまいます。以下のような情報も詳しく記載しましょう。

  • 不動産:地番、家屋番号など
  • 預貯金:銀行名、支店名、口座番号、残高など
  • 貴金属:品ごとの個数、保管場所など

財産目録が明確に記載されていなければ、遺産分割協議や相続税の申告の際にトラブルの元となってしまう恐れがあります。

 

財産目録の作成方法

財産目録の作成を行う方法は、ご自身で作成する方法と、専門家に依頼して作成する方法があります。それぞれどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

 

1.個人で作成する

個人で相続財産の調査や財産目録を作成すれば、費用を抑えられるというメリットがあります。ただし、ご自身で財産目録を作成する場合には、相続財産の調査もご自身で行うことになるでしょう。相続財産の調査がしっかりと行われていなければ、財産目録を正確に作成することはできません。相続財産の調査を含めると個人で財産目録を作成することは非常に手間と時間がかかります。

また、個人で財産目録を作成した場合、マイナスの財産を見落とすなど、正確性に欠けることもあり、後からトラブルに発展する可能性があるため注意が必要です。

 

2.専門家に依頼する

財産目録の作成を含む相続手続きは、法律の専門家に依頼することができます。

依頼できる専門家は、司法書士、行政書士、弁護士などが挙げられます。
専門家であれば専門的な知識や実務経験があるため、スムーズかつ正確に財産の調査を行い、財産目録の作成を行うことができます。
財産目録を作成して全体の相続遺産を把握した上で、的確なアドバイスを受けることもできます。

依頼するために費用が発生するというデメリットはあるものの、手間や負担を大幅に軽減することができ、相続に関するトラブルも最小限に抑えられることが期待できます。
相続財産の放棄や相続税の申告などには期限もあるので、専門家に依頼してスムーズに手続きを進めることをおすすめします。

 

まとめ

今回は、財産目録の必要性、財産目録の作成方法と注意点などについて解説しました。

財産目録の作成は、適切かつ公正に遺産分割を行うための大切な工程です。保有する財産が多いほど、財産目録は複雑になり、作成に手間と時間がかかります。

また、保有する財産が少ない場合でも、正確性のない財産目録はトラブルの元になってしまいます。

財産目録の作成に関して、困っていることや疑問などがある場合は、法律の専門家に相談してみましょう。財産目録の作成だけではなく、相続手続き全体に関する相談にも対応してもらえます。