相続放棄とは|選択する際の手順と注意点を解説

「親族が負債を抱えたまま亡くなったけれど、相続放棄をすべきなのだろうか」と迷われる方は多いのではないでしょうか。

長い人生の中でも遺産相続をすることはそう何度も起こらないものです。相続方法について自分で調べてみるものの、なじみのないことが多いために難しく、本当にこれで進めてよいものか迷ってしまう場面もあるでしょう。
相続放棄は相続方法の中でも選択すべきケースが比較的わかりやすい方法です。自分の場合は該当するのか、また該当するならどのように進めていけばよいのかを知り、着実に手続きをしていきましょう。

今回は、相続放棄とは何か、相続放棄を選択すべきケース、相続放棄をする場合の手順と注意点、相続放棄できないケースなどについて解説します。

 

相続放棄とは

相続放棄とは、被相続人が遺した相続財産の相続権を放棄し、プラスの財産もマイナスの財産も一切の財産を相続しないという相続方法をいいます。

相続放棄を選択した場合、相続人ではなくなります。一度相続放棄の手続をすると取り消すことはできませんので、慎重に財産を調査した上で検討するようにしましょう。

 

相続放棄をするのが適当なケースとは

相続放棄を選択すべきケースは限られます。次に紹介するようなケースに該当する場合は、相続放棄を選択するのが適切といえるでしょう。

 

1.明らかにマイナスの財産が多い場合

相続財産のうちプラスの財産よりもマイナスの財産の方が明らかに多い場合は相続放棄を選択するのがよいでしょう。全ての財産の相続を放棄することになるため、負債についても放棄できます。
ただし、一度相続放棄の手続をしてしまうと取り消すことはできないため、後から莫大なプラスの財産が見つかったとしても相続できません。後悔しないためにも、相続放棄を選択すると決める前に、相続財産の調査をしっかり行うことが大切です。

相続について不明な点や不安がある場合には、わからないまま進めてしまうのではなく、一度専門家に相談することをおすすめします。

 

2.相続問題に巻き込まれたくない場合

相続放棄をすれば相続人ではなくなります。そのため「他の相続人たちとの折り合いが悪く、関わらなければいけないくらいなら、相続財産はいらない」という場合や、「揉め事必至の相続問題から身を引きたい」といった場合にも適切な方法といえるでしょう。

相続放棄は手続き自体も、他の相続人の承認や署名を得る必要などはありません。他の相続人と関わることなく、一人で進められます。

 

3.特定の相続人だけに相続させる場合

被相続人が家業を営んでいて、特定の相続人だけが後継ぎになる場合など、相続人のうちの誰か一人だけに相続をさせたい場合にも相続放棄は有効です。後継ぎとなる相続人に全ての財産が相続されることになるため、残りの相続手続きがシンプルになるというメリットもあります。また、他の相続人は、万が一被相続人が事業に関する負債を残していたことが後になって明らかになったとしても、債務を負う必要がないという安心感を得られます。

このように相続人全員の合意の下に特定の相続人だけに相続させるような場合は、後で紹介するような裁判所による手続きを経る必要はありません。遺産分割協議の際に「財産の全てを特定の相続人に相続させる」事を取り決め、この旨を遺産分割協議書に記載することで、他の相続人たちは相続放棄をするという形で対処するのが一般的です。

 

相続放棄をする場合の手順と注意点

相続放棄を選択することを決めたら、早めに手続きを進めましょう。というのも、相続放棄の申し立てには期限があるからです。必ず期限内に正しい方法で手続きをしましょう。
具体的な手順と注意点について説明します。

 

1.必ず3カ月以内に手続きを!

相続放棄をする場合、相続が発生した事実を知った日から3か月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。親族が亡くなった後は供養葬祭などやるべきことも多く、悲しみに暮れる間もなく大変な思いをするものです。そんな中で、期限に間に合うように相続手続きをしなければならないと思うと気が遠くなるという方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、熟慮期間と呼ばれる3か月を過ぎてしまった場合、どんなにマイナスの財産が多くても相続放棄ができなくなってしまいます。速やかに財産調査を行い、相続放棄をするか否かを決定しなければなりません。

 

2.相続放棄の申述を行う場合の手順と費用

相続放棄の申述手続きは、裁判所に申し立てさえできれば完了したのも同然です。必要書類を揃えることができれば、複雑なことはあまりないので自分で申し立てることも可能です。

 

①申立先と費用

相続放棄の申し立ては、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。裁判所の管轄区域については下記の裁判所の公式サイトで確認してください。

費用については、申述書に貼り付ける収入印紙800円分と連絡用の郵便切手が必要になります。郵便切手については各地の裁判所によって異なるため、申し立てをする管轄の家庭裁判所に確認の上、準備しましょう。

参考サイト:裁判所の管轄区域(裁判所公式サイト)

 

②必要書類と申立方法

相続放棄の申し立てを行う際は、相続放棄の申述書、被相続人の住民票除票又は戸籍の附票、申述人の戸籍謄本の他に、申述人と被相続人の関係に応じた書類を準備する必要があります。
それぞれの場合に必要な書類は以下のとおりです。

【被相続人の配偶者である場合】

  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本

申述人の戸籍謄本と同じである場合がほとんどなので、不要であることも多いでしょう。

 

【被相続人の子又はその代襲者(孫,ひ孫等)の場合】

  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍)謄本
  • (被相続人の子が死亡している場合)被相続人の子の死亡の記載のある戸籍(除籍)謄本

 

【被相続人の父母・祖父母等の場合】

  • 被相続人の出生から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • (被相続人の子で死亡している人がいる場合)その子の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
  • (被相続人の子に死亡している人がいる場合)その子の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

 

【被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者(おいめい)の場合】

  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
  • (被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している人がいる場合)その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の子の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
  • (申述人が代襲相続人(おい,めい)の場合)本来の相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

 

申述書は下記ページからダウンロードできます。

参考サイト: 相続の放棄の申述書(20歳以上)(裁判所公式サイト)

被相続人との関係によっては、揃えるべき書類がわかりにくいこともあるでしょう。そのような場合は速やかに専門家に相談することをおすすめします。相続放棄の申し立てには期限があります。わからないまま時間だけが経過し、気づいた時には期限が過ぎていたということがないよう注意が必要です。

 

③申立後の流れ

申述書を提出した後、しばらくすると裁判所から照会書と回答書が送られてきます。相続放棄についての意思を確認するためのものなので、回答書に記入の上、返送しましょう。
回答書が裁判所に受理されると、相続放棄申述受理通知書が送られてきます。通知書の受領をもって、無事相続放棄の手続きは完了となります。

相続放棄をしたことを証明する相続放棄申述受理証明書は、別途手続きをしなければ取得できません。債権者から提示を求められた場合など、証明が必要な場合は下記のページの申請書を利用して手続きをして下さい。

参考サイト:その他の申請(裁判所公式サイト)

 

相続放棄できないケースとは

被相続人の相続財産の全部や一部を処分または隠匿した場合は、単純承認をしたとみなされ、相続放棄を認めてもらえません。本来なら相続放棄をすべきケースなのに相続放棄ができないといった事態に陥らないためにも、相続財産には不用意に触らないように注意しましょう。

 

相続放棄に関するよくある質問と回答

普段なじみのない相続について一通り理解したつもりでも、いざ相続を進めようとするとわからないことが次々出てくるものです。ここでは、相続放棄に関するよくある質問に回答します。

 

1.相続放棄のデメリットはありますか?

相続放棄は全ての相続財産の相続権を放棄するもので、裁判所に相続放棄の申述が受理されると、取り消すことはできません。
そのようなことから、相続放棄のデメリットとして、後になって莫大なプラスの財産が見つかった場合に相続できないことが挙げられるでしょう。

後悔しないためにも、相続方法は財産調査をしっかり行った上で決定することが大切です。

 

2.借金は相続したくないが家は相続したい場合は?

被相続人に莫大な借金があることがわかっており、負債の相続はしたくないが、現在被相続人名義の家に住んでいるので家は相続したいというような場合は、相続放棄ではなく、限定承認を選択するという方法もあります。

相続放棄をした場合、被相続人名義の家からは出ていく必要がありますし、家具やアクセサリーなど被相続人の所有物を持ち出すこともできません。しかし、限定承認を選択すれば、負債額を大幅に減らしながら、家を相続することが可能となります。

ただし、限定承認は手続きが複雑なので、選択したい場合は専門家に相談することをおすすめします。

 

3.プラスとマイナスの財産のどちらが多いかわからない場合は?

被相続人と生前あまり交流がなく、調査をしても財産の実態がよくわからない場合は、どの相続方法を選択すればよいものか判断に迷うものです。単純承認をして全ての財産を相続するのはリスクが伴いますし、相続放棄によって全ての相続権を手放してしまうとプラスの財産が多く残った場合に後悔するかもしれません。
そのような場合は限定承認を選択するのがよいこともあります。限定承認なら、負債があった場合は相続財産の範囲内でのみ弁済し、財産が残った場合にのみ相続できます。後になって新たに債権者が発覚しても、相続人に弁済する義務はないので安心です。

ただし、限定承認は手続きが複雑な上、時間もかかる方法でもあるため、実際に選択すべきケースは限られます。相続方法の選択に迷った場合は、専門家に相談するとよいでしょう。

 

4.自分が相続放棄すると相続権は自分の子に移る?

被相続人が自分の親であり、子である自分が相続放棄をした場合、被相続人の孫にあたる自分の子へ相続権が移るのではと心配される方は多いようです。この場合、自分の子に相続権が移ることはありません。相続放棄をすれば相続人ではなくなるため、いわゆる代襲相続の必要がなくなるからです。
被相続人の子が全員相続放棄をした場合、相続権は第二順位である被相続人の親に移ります。さらに第二順位である親も相続放棄をした場合は、第三順位である被相続人の兄弟姉妹に移ります。

 

5.相続放棄をすると生命保険金を受け取れない?

被相続人が亡くなったことで支払われる生命保険金は、基本的に受取人に指定された人のものなので、相続財産には含まれません。そのため、相続放棄をしても生命保険金を受け取ることはできます。

ただし、同じ保険に関するお金でも、積立保険などの解約返戻金は相続財産に含まれます。解約返戻金は契約者である被相続人に対して支払われるものだからです。従って、相続放棄をした場合は受け取れません。
万一誤って使ってしまった場合は、単純承認をしたとみなされ、相続放棄ができなくなってしまうので注意しましょう。

 

まとめ

今回は、相続放棄とは何か、相続放棄をするのが適当なケース、相続放棄をする場合の手順と注意点、相続放棄できないケースなどについて解説しました。

相続放棄は、選択すべきケースが比較的わかりやすく、手続きも簡単な相続方法です。
しかし、一度裁判所に申し立てを受理されてしまうと撤回ができないため、必ず財産調査をきちんと行い、慎重に検討した上で選択するようにしましょう。
財産調査が難航している、本当に相続放棄を選択すべきかよくわからない、などという場合には、専門家に相談することをおすすめします。