相続の単純承認とは・不本意な相続をしないための基本知識を解説

「親が亡くなってしまって相続手続きをしなければならないが、初めてのことでどうすればよいかわからない」

「相続の方法は単純承認にしようと思うが、単純承認で問題ないのか不安だ」

このように思われている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ほとんどの人にとって相続手続きは一生に数回程度しか必要のないものです。そのため、わからないことが多かったり、本当にこれでよいのか不安になったりしてスムーズに進められない人も少なくないでしょう。

今回は、相続方法の種類、単純承認の手続き方法、単純承認をしたとみなされてしまう場合、単純承認に関するよくある質問などについて解説します。

 

相続の方法は3種類

親族が亡くなってしまい相続手続きをしようという場合、相続人が取り得る選択肢には、単純承認・限定承認・相続放棄の三つの種類があります。

 

1.単純承認とは

相続財産には、被相続人の抱えていた借金やローンなどのマイナスの財産も含まれます。預金や不動産、証券など、プラスの財産ばかりとは限りません。

単純承認とは、プラスの財産もマイナスの財産も全て相続することです。プラスの財産しか存在しない場合や、マイナスの財産よりもプラスの遺産の方が明らかに多い場合は、単純承認の方法を選択して問題ないでしょう。

ただし、プラスの財産の方が明らかに多いように思えたとしても、財産調査を行い、相続財産を正確に把握しておくことが大切です。一度単純承認をしてしまうと、後から相続方法を変更することは基本的にできません。後から多額のマイナスの財産が発覚してしまったなど困った事態に陥らないためにも、被相続人の財産はしっかり調査しておきましょう。

 

2.限定承認とは

限定承認とは、全ての遺産を引き継ぐのではなく、相続人が損をしない範囲で相続することをいいます。プラスの財産よりもマイナスの財産の方が多い場合、限定承認を検討すべきです。

例えば、被相続人のプラスの財産が1000万円、マイナスの財産が2000万円だったとしましょう。限定承認の方法で相続した場合、相続人が相続するのはプラスの財産1000万円とマイナスの財産1000万円となります。被相続人の負った債務の返済は、被相続人の残した財産の範囲内だけで行うこととなり、残りの1000万円については相続人が支払う義務は発生しません。

また、マイナスの財産よりもプラスの財産の方が多くなった場合は、マイナスの財産を清算した後に残った分を相続することができます。
例えば、プラスの財産が1000万円、マイナスの財産が500万円だった場合、マイナスの財産を弁済した後に残った500万円については、相続人が受け取ることができます。

 

3.相続放棄とは

相続放棄は、プラスの財産もマイナスの財産も全て相続しないという方法です。プラスよりもマイナスの財産の方がはるかに多いことが明らかな場合は、相続放棄を選択することが多いでしょう。

相続放棄をすれば相続人としての効力が一切及ばないため、たとえ被相続人が膨大な債務を残していたとしても、相続人の財産は完全に保護されます。相続手続きをする必要もありません。

 

相続方法は熟慮期間中に決める

どの相続方法を選択すべきか明らかな場合は問題ありませんが、実際は、被相続人の財産がどれくらいあるのか、プラスとマイナスの財産ではどちらがどれくらい多いのかわからない場合もあります。その場合、相続方法を決定するまでに時間が必要です。

そのような場合のために、相続方法を決定するまでには「熟慮期間」と呼ばれる期間が設けられています。熟慮期間は「相続が開始したことを知ったときから3カ月間」です。限定承認や相続放棄を選択する場合は、この期間内に家庭裁判所に申し立てをする必要があります。

また、この熟慮期間内に相続財産の調査が終わらない場合や、相続の方法を決められない場合は、裁判所に申し立てをすることで熟慮期間を延長することもできます。

 

単純承認の手続きはどうすればいいの?

単純承認については、特に手続きは必要ありません。相続放棄や限定承認の手続きを3か月以内に行わなければ、自動的に単純承認をしたものとみなされます

しかし、単純承認をする場合でも、財産調査をしっかり行い、被相続人の財産を把握することは大切です。被相続人の財産を正確に把握せず、明確な根拠なしに「プラスの相続財産が多い」と判断した挙句、後から莫大なマイナスの財産の存在が発覚すると大変です。

熟慮期間内に相続放棄や限定承認などの手続きをしなければ単純承認をしたとみなされ、マイナスの財産を負うことになってしまいます。
熟慮期間が経過すると基本的に相続放棄はできませんので、財産調査により被相続人の財産を把握して「問題ない」と判断した上で単純承認を選択するようにしましょう。

 

単純承認をしたとみなされてしまう場合

民法第921条で定められた行為をしてしまうと、相続人の意思とは関係なく、自動的に単純承認をしたとみなされてしまう場合があります。これを「法定単純承認」と呼びます。

知らずに法定単純承認にあたる行為をしてしまうと、限定承認や相続放棄はできません。そのような事態に陥らないためにも、どのようなことをすれば法定単純承認とみなされてしまうのか理解しておきましょう。

 

1.相続人が相続財産を処分してしまった場合

相続人が、被相続人の財産の全部または一部を処分した場合は、法定単純承認と判断されます。相続人が相続財産を既に自分のものとした、つまり相続したと考えられるためです。具体的には、次のような行為が該当します。

  • 被相続人の預金口座からお金を引き出して相続人の支払いに充てる
  • 被相続人の預金口座の名義変更や解約
  • 被相続人名義の不動産の売却や譲渡
  • 被相続人の動産をわざと壊したり、廃棄したりする
  • 賃貸中の不動産などの賃料の振込先を自分名義の口座に変更する
  • 抵当権の設定
  • 支払い期日がまだ来ていない債務の弁済

マイナスの財産があって、限定承認や相続放棄を考えている場合は特に気を付けましょう。

 

2.相続人が財産を隠匿するなどした場合

限定承認や相続放棄は、プラスの財産よりもマイナスの財産の方が多い場合に相続人が選択できる制度であり、相続人を守るための制度です。

それにもかかわらず、プラスの財産があるのに隠匿したり、意図的に相続財産の目録に記載しなかったりすれば、債権者に対する背信行為とみなされます。背信行為を行った相続人は法律で守る必要はないと判断されてしまい、どんなにマイナスの財産が多くても単純承認しか選択の余地はなくなってしまうのです。

 

3.3カ月以内に他の相続手続きをしなかった場合

単純承認を選択する場合は特に何の手続きも必要としません。

一方、限定承認や相続放棄をしたい場合には、家庭裁判所に申し立てを行って許可を得る必要があります。これらの申し立てには期限があり、熟慮期間である3か月以内に行わなければなりません。

3か月を経過すれば、自動的に単純承認をしたとみなされ、被相続人の全ての財産を相続することになります。

 

単純承認に関するよくある質問と回答

「これって法定単純承認にあたる行為なの?」など、単純承認に関するよくある質問について回答したいと思います。

 

1.相続財産から葬式代を出すと法定単純承認になる?

お葬式には意外と費用がかかるものです。亡くなった被相続人のお金を使えたら助かるけれど、これは相続人の財産を勝手に処分してしまう法定単純承認に該当する行為なのか心配だという方もいらっしゃるでしょう。

しかし、相続財産から葬式代を出すことは法定単純承認に該当しないので、心配しなくても大丈夫です。

故人の財産をお葬式の費用や仏壇・墓石代など、故人の弔いの費用に充てる場合、その額が相当と認められる範囲内であれば、相続財産の処分とはみなされません。

また、被相続人の生前の医療費を相続財産の中から支払うことも、法定単純承認とはみなされません。

 

2.生命保険料を受け取っても問題ない?

被相続人が生命保険を掛けており、受取人を相続人に指定している場合も多いでしょう。この場合、特定の相続人が死亡保険金を受け取っても法定単純承認にはあたりません。これは被相続人に属する財産ではないため、相続財産には含まれないからです。

ただし、受取人が被相続人となっている保険を相続人が解約して、解約返戻金を受け取った場合は、法定単純承認に該当します。この場合は相続財産を処分したとみなされますので、注意しましょう。

 

3.クレジットカードや携帯を解約しても大丈夫?

クレジットカードや携帯電話の解約は法定単純承認とみなされる行為ではありません。これらは相続財産からの出費を抑えるための行為であって、相続財産の処分行為であるとはみなされないからです。

 

4.単純承認した後に借金があることがわかった場合は?

プラスの財産の方が明らかに多いと思ったから単純承認にしたのに、後になって借金があることが発覚したので相続放棄に変更したいという場合もあるでしょう。

しかし、残念ながら、単純承認後に相続放棄をすることは原則としてできません。
ただし、上記のような誤信があった場合、相続放棄が認められる可能性もあります。一度専門家に相談してみるとよいでしょう。

 

5.亡くなって3カ月以上経ってから相続を知った場合は?

故人やその近しい人と交流がない場合、被相続人が亡くなってから3か月以上経過してから相続が開始していることを知ることもあるでしょう。特にマイナスの財産が莫大にある場合は驚いて不安になるかもしれません。

しかし、この場合は法定単純承認とはみなされません。限定承認や相続放棄の申し立て期間である熟慮期間とは「相続が開始したことを知ったときから3カ月間」であって、被相続人が亡くなってから3カ月間ではないからです。直ちに全ての財産を相続することにはなりませんのでご安心ください。

 

まとめ

今回は、相続方法の種類、単純承認の手続き方法、単純承認をしたとみなされてしまう場合、単純承認に関するよくある質問などについて解説しました。

相続方法には単純承認・限定承認・相続放棄の3種類の方法があります。後悔しないためにも、被相続人の財産をしっかり調査した上で、どの方法を選択するのが最善か慎重に検討して結論を出しましょう。

どの相続方法を選択すべきかわからない場合や、自分で抜かりなく財産調査をできるか不安だという場合は、専門家に相談してみることをおすすめします。