遺言書が見つかったら開封せずに裁判所で検認手続きを!
遺品の整理をしていると、遺言書が見つかり、「どうすればよいのだろう?」「開封しても問題ないのだろうか?」などと戸惑っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
自宅で遺言書を見つけた場合、勝手に開封してはいけません。家庭裁判所で検認手続きを行う必要があるので、速やかに申し立てをして手続きを進めましょう。
今回は、遺言書が見つかった場合の対処法、遺言の検認手続きの流れなどについて解説します。
遺言書が見つかったら勝手に開封しない!
これは意外と知られていないのですが、故人の遺言書が見つかってもその場で勝手に開封してはいけません。その理由について説明します。
1.遺言書の検認手続きが必要
遺言書が見つかったら、開封する前に、家庭裁判所で検認手続きを行う必要があります。遺言の内容を執行するのは、検認後です。
検認手続きとは、家庭裁判所で遺言の存在や内容を確認する手続きです。相続人に遺言の存在やその内容を知らせ、さらに、その内容を明確にすることで勝手に改ざんできないようにするために行われます。
ただし、遺言書を形式的に判断するにすぎず、その有効性を判断するものではありません。また、検認手続きを経なかったからといって遺言書の内容が無効になるわけでもありません。
2.公正証書遺言であれば検認手続きは不要
見つかった遺言書が公正証書遺言であれば、検認手続きを経る必要はありません。また、故人から公正証書遺言を作成した旨を聞いていたが、その写しが見つからないという場合は、公証人役場で再発行してもらえます。ただし、写しの再発行は故人が公正証書遺言を作成した公証役場でなければできません。
どこで作成したかわからなければ、まず、最寄りの公証役場で作成した公証役場を調べてもらいましょう。公正証書遺言が公証役場で保管されているか調べてもらうには、以下の書類が必要です。
- 故人が亡くなったことがわかる戸籍謄本や除籍謄本
- 故人の相続人であることがわかる戸籍謄本
- 本人確認書類
①遺言の種類と検認手続き
遺言には以下の3つの種類があり、種類によって検認手続きの要否が異なります。
遺言の種類 | 検認手続きの要否 |
---|---|
自筆証書遺言 | 必要 |
公正証書遺言 | 不要 |
秘密証書遺言 | 必要 |
自筆証書遺言とは手書きの遺言書のことです。一般的に「遺言」と聞いてイメージするのがこの形式でしょう。全文を必ず自筆で記載しなければならず、遺言書を作成した日付や遺言者の署名、押印が必要で、不備のある遺言書は無効となります。
相続人が遺言書を見つけたら、家庭裁判所で検認手続きを行う必要があります。
公証役場で公証人に作成してもらうのが公正証書遺言です。作成に費用はかかりますが、公証人という専門家に作成してもらうため、遺言書に不備があったために無効になるという心配がなくなります。家庭裁判所での検認手続きは不要です。
秘密証書遺言とは、公証役場で遺言書の存在のみを証明してもらう遺言書です。遺言書自体は本人が作成し、公証人が確認することもないため、その内容は秘密にできます。
自筆証書遺言と同様に、検認手続きが必要です。
遺言の検認手続きの流れ
遺言が見つかった後に行う検認手続きの申し立て方法と流れについて説明します。
1.申立人と申立先
遺言書の検認手続きの申し立ては、原則として、遺言書を保管していた方、または遺言書を見つけた方が行います。
申立先となる裁判所は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。管轄裁判所は、裁判所の公式サイトで調べられます。
参考URL:裁判所の管轄区域
2.申し立てに必要な書類
申し立てをする際には、以下の書類が必要です。
- 申立書
- 遺言者の出生から死亡までの全ての戸籍謄本類
- 相続人全員分の戸籍謄本
申立書の書式は、裁判所の公式サイトからダウンロード可能なので、利用するとよいでしょう。
参考URL:遺言書の検認の申立書
また、以下のようなケースでは、上記に加えて、さらに必要な書類があります。
①代襲相続が起こっている場合
代襲相続とは、本来の相続人が既に亡くなっていた場合に、相続権がその子や孫に移ることです。例えば、被相続人の子が既に亡くなっており、その人に子がいた場合、相続人はその子(被相続人にとっての孫)になります。
代襲相続が発生した場合、上記の書類に加えて、本来の相続人の出生から死亡に至るまでの全ての戸籍謄本類が必要です。
②相続人が直系尊属で、死亡者がいる場合
直系尊属とは、親や祖父母など、被相続人よりも上の世代の相続人をいいます。
相続人が直系尊属であり、さらに既に亡くなった方がいる場合は、亡くなった方の死亡の記載のある戸籍謄本(または除籍謄本、改製原戸籍)の提出が必要です。
③相続人が不存在の場合、配偶者のみの場合、兄弟姉妹及びその代襲者の場合
相続人がいない場合、配偶者しかいない場合、兄弟姉妹やその代襲者となる場合は、以下の書類が必要です。
- 遺言者の父母の出生から死亡に至るまでの戸籍謄本類
- 遺言者の直系尊属の死亡の記載がある戸籍謄本類
- 兄弟姉妹で既に亡くなった方がいる場合は、その方の出生から死亡に至るまでの全ての戸籍謄本類
- 代襲者としての甥、姪で既に亡くなった方がいる場合は、その方の死亡の記載がある戸籍謄本類
どのような書類が必要かわからない場合は、専門家に相談するとよいでしょう。
3.検認期日に裁判所へ出頭
申し立てをしてしばらく経つと、裁判所から相続人に対して検認手続きの期日を知らせる通知が届きます。検認期日には、申立人が提出した遺言書を、相続人らが立ち合いのもと、裁判官が開封し、内容を確認します。
検認期日には必ずしも相続人全員が出頭する必要はありません。相続人が全員揃わなくても、検認手続きは進められます。出席しなかった相続人らには検認を実施した旨を記載した通知文書が裁判所から送付されます。
4.手続き後は検認証明済証明書の申請を忘れずに
検認手続きが完了したら、忘れずに検認証明済証明書の申請を行いましょう。
検認証明済証明書とは、遺言書に添付されるもので、遺言の内容を執行する際に必要となります。裁判所で準備されている書式に必要事項を記入し、150円分の収入印紙を貼付して申請しましょう。
遺言書の検認手続きは速やかに!その理由とは
遺言書が見つかったら、できる限り早急に家庭裁判所に検認手続きを申し立てるべきです。
その理由について説明します。
1.相続手続きを進められない
検認手続きを経なければ、遺言書が開封できず、遺言の内容もわからないため、相続手続きが進められません。
特に遺言者と生計を共にしていた方がいらっしゃれば、生活に困ることもあるでしょう。そのような事態を避けるためにも、遺言の検認手続きは早く進めるべきです。
2.期限のある相続手続きに間に合わない可能性がある
遺言書の検認は、申し立ててから手続きが完了するまで1ヵ月ほどかかります。手続きをしないまま長期間放置すると、他の相続手続きの期限が到来してしまう可能性があるため、注意が必要です。
手続きに期限のある相続手続きには以下のようなものがあります。
①限定承認・相続放棄の申し立て
②相続税の申告
それぞれについて説明します。
①限定承認・相続放棄の申し立て
限定承認、相続放棄は相続の開始を知ったときから3か月以内に申し立てなくてはなりません。
限定承認とは、遺産のうちプラスとマイナスの財産のどちらが多いかわからない場合に選択される手続きです。負債が超過していた場合は、プラスの財産の範囲でのみ清算します。
相続放棄とは、全ての遺産の相続を放棄する手続きです。相続権自体がなくなるので、明らかにマイナスの財産の方が多い場合や、他の相続人と関わりたくない場合などに選択されます。
限定承認も相続放棄も相続財産の内容によっては、申し立ての機会を逃すと相続人が損害を被るおそれのある手続きです。遺言の検認手続きに時間がかかったことを理由に、申し立て期限を延長してもらうことはできないので、検認手続きは速やかに行いましょう。
②相続税の申告
相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月です。期限内に申告、納付しなければ延滞税や加算税が課される可能性があります。相続税の申告も、遺言書の検認手続きの遅滞を理由に期限を延長してもらうことはできません。
遺言書に関するよくある質問と答え
最後に、遺言書に関するよくある質問に回答します。
1.誤って遺言書を開封してしまったらどうなるの?
遺言書の検認手続きを経ずに、遺言書を開封しても、遺言の効力は失われません。ただし、5万円以下の過料が課される可能性がありますので、注意しましょう。
2.封筒に入れられていない遺言書でも検認手続きは必要?
必要です。どんな状態であろうと、自筆証書遺言が見つかったら、家庭裁判所で検認手続きを経る必要があります。
ただし、封筒に入れられていない場合、検認手続き前に遺言書の中身を確認しても問題ありません。
3.後から遺言書が見つかった場合はどうすればいい?
遺産分割協議を終えた後に遺言書が見つかった場合、遺産分割協議は無効となります。遺言書の内容に従って、改めて遺産を分割しなくてはなりません。この場合、もし相続人全員が、遺産分割協議で合意した内容のままでかまわないなら、遺言書の内容を無視して、そのまま相続手続きを進められます。
ただし、遺言内容が、相続人以外の受遺者へ遺贈するものである場合、たとえ相続人全員が遺産分割協議どおりの分割で納得していたとしても、遺言書に従わなくてはなりません。
4.遺言書に書かれていない財産がある場合は?
遺言書に記載されていない財産については、遺産分割協議を行い、その分についての分割の仕方を決めなくてはなりません。この場合、遺産分割協議の対象となるのは、遺言書に記載されていない財産のみです。遺言書に記載されている財産については、遺言の内容に従うことになります。
まとめ
今回は、遺言書が見つかった場合の対処法、遺言の検認手続きの流れなどについて解説しました。
遺言の内容を確認しないことには、相続手続きが進められないので、遺言書が見つかったら、開封せず、速やかに家庭裁判所で検認手続きを行いましょう。
相続手続きの中には期限のあるものもあり、検認手続きが間に合わなかったために期限内に手続きができなければ、思わぬ損害を被る可能性があります。そのため、検認手続きはできる限り早急におこなうのが望ましいでしょう。
遺言書の作成について