公正証書遺言とは~遺言書通りに相続手続き実現のため作成
公正証書遺言とは、公証役場にて公証人と2人以上の証人立会のもとの作成する極めて効力の高い遺言書のことです 。
遺言書には公正証書遺言のほかにも自筆証書遺言や秘密証書遺言がありますが、その中でも公正証書遺言は最も確実に実現できる可能性の高い遺言と言えます。
公正証書遺言はどのように作成し、どのような点に注意すべきなのでしょうか?また、他の遺言と比べてどのような違いがあるのでしょうか? 詳しく解説していきます
【 目次 】
1.公正証書遺言について
①「公正証書遺言」は公証人が作成する実現性の高い遺言
公正証書遺言とは、公証役場にて公証人と2人以上の証人立会のもとの作成する遺言書です。
公証人が関与して作成するため間違いがなく、極めて実現性の高い遺言書だと言えます。
遺言者は遺言したい内容を公証人に口頭で伝え、公証人はその内容に基づき遺言書を作成します。
公証人は法律の実務経験に長年関わってきた裁判官や弁護士などの中から任命された公正証書作成などの業務を行う公務員です。そのような実務経験豊富な公証人が作成するため書類不備で無効になることは考えにくく、家庭裁判所で遺言の検認手続きを受ける必要ありません。
また、公正証書遺言は聴覚・言語機能など障害のある方も作成することができます。
②公正証書遺言作成は増加傾向にある
遺言書には公正証書遺言の他にも「自筆証書遺言」や「秘密証書遺言」がありますが、相続発生時のトラブルを防ぐために公正証書遺言で遺言作成する方は多く、日本公証人連合会から公開されているデータよりますと、2010年の作成件数は約8万件でしたが2019年は10万件を超えており、公正証書で遺言作成する方は年々増加傾向にあると言えます。
遺言書がない場合は相続人間で遺産分割協議を行いますが、仲の良い家族であってもスムーズに決まらないこともあります。
相続財産額の大小にかかわらず、遺言書を作成しておくことで相続人同士の争いが回避される可能性がありますので、専門家に相談し、納得できる遺言書を作成するようにしましょう。
それぞれの遺言書にはメリットデメリットがありますので、各々の特徴を理解し、どの遺言方法で作成するかを専門家に相談し決めるとよいでしょう。
③公正証書遺言以外の遺言の種類
⑴自筆証書遺言
自筆証書遺言は遺言者本人が自筆で作成する遺言書です。
氏名や日付だけでなく本文も全て自筆にて作成しなくてはならず、代筆は認められません。記述すべき項目が欠けていたり明確でない場合や、一部分でも他人が記述していると遺言書が無効になります。
基本的に自筆証書遺言は全て自筆で作成しなくてはなりませんが、2019年の民法改正により作成方式が緩和され、財産目録を別紙で作成し添付する場合についてはパソコンでの作成が認められることになりました。
また、預貯金や不動産については、預金通帳のコピーや不動産登記事項証明書の添付も可能となり、相続財産の多い遺言者にとって負担は大きく軽減されています。
(※2019年の法改正以前にパソコンで作られた別添財産目録は認められません)
さらに、2020年7月10日から法務局で自筆証書遺言を保管してもらえる「自筆証書遺言書保管制度」が開始され、この制度を利用した場合、家庭裁判所での検認手続きは不要のため速やかに相続手続きが開始されるメリットがあります。
(※検認作業はおおよそ1〜2ヶ月日かかります。)
⑵秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言者本人が作成した遺言書を公証人にその遺言書の存在を証明してもらうという遺言書です。
公証人に証明してもらうのは遺言書の存在のみで、遺言内容は秘密にできるので、第三者に遺言内容を知られることはありません
遺言者は作成した遺言を封筒に入れ、遺言に押印した同一のもので封印します。
その遺言を公証人と2人以上の証人に自身の作成した遺言であると申述し、その封筒に公証人・証人・遺言者が署名と押印をします。
秘密証書遺言は自筆でなくパソコンでの作成も可能です。
ですが、要件を満たさず秘密証書遺言としては無効であっても、自筆証書遺言の要件を満たしている場合は自筆証書遺言として有効となりますので、秘密証書遺言を作成する場合は自分で書くことが可能なら、自筆で書いておくことをおすすめします。また、秘密証書遺言は公証役場で保管してもらえません。自身または第三者に委託するなどして保管します。自筆証書遺言同様、遺言執行時に検認が必要となりますので、遺言書の存在を知ってから遺言執行までおおよそ3ヶ月程度かかるでしょう。
2.公正証書遺言のメリットデメリット
公正証書遺言は偽造や紛失の恐れがないため多くの方が利用している遺言書です。
しかし、メリットだけでなくデメリットもありますので、専門家に相談し、自身にとって一番良いと思える方法を選択するようにしましょう
①公正証書遺言のメリット
⑴公正証書遺言は不備・偽造・紛失の可能性が低く確実である
公正証書遺言は公証人が作成する公文書として扱われ、内容や書き方の不備、偽造・保管等の面での心配がなく、遺言書の種類の中でも極めて確実性の高い遺言書であると言えます。
遺言者には公正証書遺言の謄本が交付され、万が一遺言者や相続人が遺言書を紛失した場合でも公証役場に原本がありますので、再交付してもらえます。
⑵公正証書遺言は検認作業が不要
「遺言書の検認」とは、家庭裁判所にて遺言書が確かに存在し、遺言書の内容が偽造・変造されていないことを確認する手続きのことです。
具体的には、遺言書の保管者もしくは発見者が最寄りの家庭裁判所に行き、相続人や公証人立ち合いのもと、遺言書を開封して内容(遺言書の状態、日付・署名、加除訂正の状態、など)を確認します。
公正証書遺言は公証人と証人(2名以上)の立ち会いのもと作成されるため偽造当の恐れがなく、また、公正証書であることから高い信用性があるので検認作業が不要です。
自筆証書遺言や秘密証書遺言や場合は家庭裁判所で検認の申し立てをして指定された期日まで待たなくてはなりません。検認申し立ての準備に約1ヶ月、検認申し立て〜期日まではおおよそ1〜2ヶ月かかりますので、自筆証書遺言で保管制度を利用していない場合は執行までにおおよそ3ヶ月程度かかります。
⑶公正証書遺言は身体が不自由な場合でも作成することができる
公正証書遺言は言語・聴覚機能や障害がある場合でも作成可能です。
1999年に行われた民法の一部改正により言語障害やと聴覚障害者のある場合でも公正証書遺言の作成が可能になりました(民法第969条の2)。
身体に障害のある方が公正証書遺言を作成するときは、遺言者が遺言内容を口頭で公証人に伝え、その遺言内容を基に公証人が作成しますが、聴覚や言語機能に障害のある方も、意志の確認ができれば公正証書遺言を作成することができます。
[言語障害のある方の場合]
遺言者が言語障害(発話が不明瞭な場合も含む)である場合、口述で公証人に遺言を伝えることができません。
そのため言語障害のある方は公証人と証人の前で遺言内容を「通訳人の通訳」により伝える(申述する)、もしくは筆談(自書)で述べることで口述したと扱われ、公正証書遺言を作成することができます。
[聴覚障害のある方の場合]
遺言者が聴覚障害である場合、公証人が作成した遺言内容を「通訳人の通訳」または遺言者本人が「遺言内容の閲覧」をすることにより遺言者と証人に伝え、読み聞かせをしたとすることができ、公正証書遺言を作成することができます。
[目に障害のある方の場合]
遺言者が目に障害のある場合、証人二人以上が立ち合い遺言者が公証人へ遺言内容を口頭で伝え、公証人が作成します。
作成した公正証書遺言を公証人が読み上げ、遺言者と証人は遺言内容が正しく筆記されていることを確認しします。
⑷公正証書遺言は公証人が関与するので遺留分を配慮して遺言書を作成してもらえる
遺言書を作成するときには遺留分を侵害しないように十分配慮し作成しなければなりません。
公正証書遺言は法律知識のある公証人が作成しますので、明らかに遺留分を侵害している遺言書を作成する可能性は低いでしょう。
しかし、自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合は法律の専門家が作成していませんので遺留分を侵害して作成されている可能性があります。
遺留分を侵害された遺言内容であっても遺言自体が無効になることはありませんが、遺留分侵害額請求権を行使される可能性があります。
②公正証書遺言のデメリット
⑴公正証書遺言作成は手続きに手間や費用がかかる
公正証書遺言を作成する場合、遺言者は遺言書作成に必要な書類を集め遺言内容を準備し、証人と共に公証役場へ出向き、公証人立ち合いのもと遺言書を作成するなど手間と時間がかかります。
遺言者が病気やけがなどで公証役場へ行くことができない事情がある場合は、公証人が遺言者のもとへ出向いて対応してもらえる出張制度があります。(別途費用要)
また、公正証書遺言は公証人が作成する必要があり、公正証書に記載する財産価額に応じて手数料が決められています。そのため、多額の預金や高価値な動産が相続財産としてある場合などは作成費用は高額になります。(※こちらの財産価格に応じた作成費用は、公正証書遺言を作成する場合必ずかかってくる費用となります。)
⑵公正証書遺言作成時には2名以上の証人の立ち合いが必須
公正証書遺言は公証人の他に証人2名が必要です。
証人を2名探すことは意外と大変な作業です。時間がかかったり適した人がみつからないこともあります。
下記のような利害関係のある人などは証人になることができませんので、公正証書遺言を作成予定の場合は前もって証人を検討しておくなど早めに準備をしておきましょう。
【公正証書遺言の証人になることができない人】
- 配偶者
- 遺言者の直系血族(子・孫・両親)などの推定相続人
- 遺言により財産を譲りうける人とその配偶者、またその直系血族
- 未成年者
- 公証人の配偶者と4親等以内の親族
- 公証役場の書記官や職員
- 遺言書の記述内容が理解できない人や意思疎通のできない人
また、自身で証人を見つけることができない場合は公証人役場で紹介してもらうこともできます。
⑶公正証書遺言は遺言内容を公証人と証人に知られてしまう
公正証書遺言は公証人と証人2以上の立会いのもと作成するため、誰にも遺言内容を知られずに作ることはでできません。
遺言内容を知られたくない場合は秘密証書遺言を利用すると良いでしょう。
⑷公正証書遺言は内容を変更したい場合、新たに作成しなければならない
公正証書遺言は公証役場に原本が保管されており、遺言者の手元にあるものは公正証書遺言の謄本です。そのため、手元にある謄本を変更したとしても法的効力はありません。
既に作成されている公正証書遺言の内容を変更したい場合は、その公正証書遺言に修正を加えるのではなく、原則として新たに遺言書を作成します。
遺言書が複数存在する場合、一番新しいものが有効とされ、以前作成された遺言書は法的効力がなくなります。
公正証書遺言を作成した後に新たに作成する遺言書は公正証書遺言でなくてもかまわず、自筆証書遺言や秘密証書遺言でも有効で、一番最後に作成された最新の遺言書が有効になります。
3.公正証書遺言の作成方法と作成費用
⓵公正証書遺言の作成の流れと相続財産の種類
公正証書遺言を作成する大まかな流れは以下の通りです。
❶財産を調査する
❷必要書類を集める
❸遺言内容を決める
❹2人以上の証人を決める
❺公証役場で遺言書を作成する
相続財産は、銀行の預貯金だけではありません。
以下のように、株式や債権などの金融商品や不動産、動産、借金などマイナスの財産も含まれます。
- 預貯金
- 株式や債権などの金融商品
- 動産(動産・絵画・宝石)
- 不動産
- 借金などの負債
相続するにあたり、相続財産としてどのようなものがあるか把握しておくことは重要です。
事前の財産調査が不十分で財産の記載漏れがあった場合、記載漏れの財産について相続人間で協議することになりますので記載漏れの無いようにしましょう。
また、多額な負債がある場合、相続放棄を検討する可能性も出てきますので、きちんと調査をして可能な限り正確に相続財産を把握しましょう。
⓶公正証書遺言作成時の作成費用
公正証書遺言作成手数料は、遺言による相続(又は遺贈)する財産価額を基に計算します。
目的の価額 | 手数料 |
100万円以下 | 5000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11000円 |
500万円を超え1000万円以下 | 17000円 |
1000万円を超え3000万円以下 | 23000円 |
3000万円を超え5000万円以下 | 29000円 |
5000万円を超え1億円以下 | 43000円 |
1億円を超え3億円以下 | 4万3000円に超過額5000万円ごとに1万3000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 9万5000円に超過額5000万円ごとに1万1000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 24万9000円に超過額5000万円ごとに8000円を加算した額 |
※遺言加算※
目的の価額が1億円以下のときは、上記によって算出された手数料額に、1万1000円が加算されます。
③公正証書遺言作成の必要な書類
公正証書遺言を作成するにあたり必要な主な書類は以下の通りです。
戸籍謄本の取得は、遺言者と推定相続人との関係が遠くなるほど取得に手間と時間がかります。戸籍謄本の取得は司法書士専門家に依頼するなどスムーズに手続きを進めることができます。
❶遺言者本人の本人確認資料
(印鑑登録証明書 + 運転免許証(顔写真入りの公的機関発行証明書のいずれか一つ)
❷遺言者と推定相続人との続柄が分かる戸籍謄本又は戸籍全部事項証明書、及び推定相続人の戸籍謄本
(※直系尊属が推定相続人の場合、遺言者に子がいないことの分かる戸籍が必要)
(※兄弟姉妹が推定相続人の場合、遺言者に子がなく、かつ、直系尊属死亡の戸籍)
❸相続人以外の人に財産を遺贈する場合には、その人の住民票
(※法人の場合には資格証明書(法人登記簿謄本又は登記事項証明書)
❹相続財産に不動産がある場合には、登記事項証明書と固定資産評価証明書又は固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書
(※全ての不動産を配偶者が相続する、などの場合には、登記事項証明書の提出は不要)
❺証人予定者の氏名、住所、生年月日、職業
❻証人予定者の本人確認資料(保険証等、顔写真付きではない資料でも可)
4.遺言執行者を決めておくと確実且つスムーズ相続手続きが進む
公正証書遺言だけでなく自筆証書遺言を作成した場合も「遺言執行者」を決めておくと良いでしょう。
「遺言執行者」とは、遺言者の希望する遺言を実現するために相続手続きを進めていく人のことを言います。
⓵遺言執行の手続き
遺言執行には以下のような手続きがあります
- 戸籍などの証明書類の収集
- 相続財産調査
- 財産目録作成
- 金融機関の口座解約手続き
- 株式等の名義変更手続き
- 換価手続き(土地や建物等不動産・動産など。場合による)
- 子の認知に関する手続き
- 推定相続人の排除・取り消し
その他、遺言執行に必要な手続き等
このように、遺言執行は不動産の名義変更や売却の手続き・戸籍収集など、専門知識が必要な上に煩雑な手続きが含まれます。
スムーズに且つ確実に手続きを進めるためにも、遺言執行者を司法書士などの専門家に決めておくと安心です。
遺言執行人を決めずに利害関係にある相続人が相続手続きを進めていく場合、遺言書通りに手続きが進まない恐れがありますので、遺言執行は専門家へ依頼することをお勧めいたします。
⓶遺言執行者の選任方法
遺言執行者の選任は以下の3つの方法があります。
- 遺言書で遺言執行者を指名する
- 第三者に遺言執行人を決めるように遺言書に記しておく
- 遺言者の死後、家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらう
この3つの方法以外では遺言執行者を決めることはできませんので、遺言書作成の時に執行者を決めておくと安心です。
前述していますが、遺言執行人を決めずに利害関係にある相続人が相続手続きを進めていく場合、遺言書通りに手続きが進まない恐れがありますので、遺言執行は専門家へ依頼することをお勧めいたします。
例えば、遺言者よりも先に受遺者が死去したケースでは、遺言書は無効にはなりませんが受遺者が相続する予定だった財産は法定相続に戻るため、残された相続人で遺産分割協議をする必要があります。
(受遺者の相続人が代襲相続をするわけではありません)
このように、トラブルにならないように遺言書を作成していても予期せぬ事態も起こりうりますので、遺言執行者には受遺者などではなく司法書士等相続の専門家を選任することをおすすめします。
また、遺言執行者には法人を選任することもできます。
5.まとめ
このように公正証書遺言は法務実務に長けた公証人が作成に関与する遺言書のため、自筆証書遺言や秘密証書遺言などの比べて不備が考えられず、実現性の高い遺言書と言えます。
作成時には他の遺言書に比べて費用や時間はかかりますが、公証人が作成するため検認不要で作成した原本は公証役場で保管されるため、偽造や紛失の心配もありません。
さらに遺言執行人を司法書士などの専門家に指定しておくことで相続人間の遺産相続トラブルを回避でき、相続人間で揉めることなくスムーズに手続きが進むでしょう。
公正証書遺言を作成し遺言執行者を専門家に依頼することは、遺言者の希望する相続を実現するための最も確実性の高い手段だと言えます。
遺言書を作成していない場合は相続人間で遺産分割協議を行い相続財産を相続します。
普段仲が良い兄弟姉妹あっても、相続となると冷静に話し合いができずに相続手続きが進まないケースもあります。第三者である専門家に相談することで問題や悩みが解決する場合もありますので、司法書士等相続の専門家に相談することをおすすめいたします。
余裕を持って生前準備をすることで遺言者と相続人の双方が納得できる遺言書を作成することができます。
大切な家族や兄弟姉妹が自身の死後に争う事なく円満な相続となるように、計画的に生前準備を進めるように心がけるようにしましょう。
遺言書の作成について