夫婦で遺言書作成する際の注意点・配偶者に全財産を相続させるには
自分の亡き後、配偶者を相続トラブルから守るために、お互いが元気なうちに夫婦で遺言書を作成しておきたいと思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、夫婦で遺言書を作成する際の注意点、配偶者に全ての財産を相続させる方法や注意点などについて解説します。
【 目次 】
夫婦の遺言書は必ず別々に作成する
夫婦共同で遺言書を残したいと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、残念ながら、夫婦が共同で遺言書を作成することはできません。
2人以上の人が、同一の証書に共同の意思を示す遺言を「共同遺言」といいますが、<共同遺言は法律で禁止されています。たとえ夫婦であってもお互いに意見があり、意見が異なる場合に、お互いの意見を阻害しかねないからです。
そのため、夫婦で作成したい場合でも、必ず別々に作成する必要があります。
遺言書を作成する際の注意点
遺言書を作成する際に注意すべきポイントについて説明します。
1.有効な遺言書にするためのポイント
一般的に用いられる遺言の形式として、主に以下の二つの種類があります。
- 自筆証書遺言:自分で作成・保管する(保管は令和2年より法務局でも可能)
- 公正証書遺言:公証役場で公証人に作成・保管してもらう
遺言書を作成するなら、確実に有効なものを残すべきです。
せっかく残した遺言書が無効とみなされると、故人の遺志通りに相続できません。相続人全員で遺産分割協議をして遺産を分割することになります。
しかし、遺産分割協議がスムーズに進行、終結するケースは多くありません。遺産分割協議が難航し、残された配偶者が大変な思いをする可能性もあるでしょう。そのような事態を避けるためにも、遺言は公正証書遺言として作成することをおすすめします。
公正証書遺言は、公証人という法律の専門家に作成してもらうため、形式の不備によって遺言が無効になる心配はありません。また、作成には二人の証人の立ち会いが必要なので、遺言者の意思能力の有無が問題になることもありません。
公正証書遺言を作成しておけば、遺言の有効性を巡る争いが起きる心配がなくなり、故人の遺志に従った相続を確実に実現できるのです。
公正証書遺言を作成する際は、一人あたり数万円の費用がかかりますが、夫婦で遺言を作成するなら、お互いのためにも公正証書遺言での作成をおすすめします。
2.遺言執行者を決めておく
遺言執行者とは、遺言の内容どおりに相続が実現するよう手続きなどを進める人のことをいいます。
<遺言執行者を決めなければ、相続手続きに相当の手間がかかります。預金口座の相続手続きには相続人全員の署名や印鑑の押印が必要ですし、不動産の相続手続きでは相続人全員で共同申請しなければなりません。他の相続人の協力を仰がねばならず、残された配偶者にとって精神的な負担となる可能性もあるでしょう。
遺言書の中で、配偶者を遺言執行人に指定しておけば、配偶者が単独で相続手続きを進められます。手続きにかかる手間が大幅に減りますし、他の相続人に協力を仰ぐ必要もないため、スムーズに進められるのです。
3.どちらかが先に亡くなることを想定した内容にする
人の最期はいつ訪れるか誰にもわかりません。年齢順に訪れるとも限りません。
子どもがいないご夫婦の中には、ご自身が亡き後に、全財産を配偶者に譲りたいという方は多いですが、その場合、遺言書に「全財産を配偶者に譲る」というだけでは不十分です。「配偶者が亡くなっていれば、姪であるAに譲る」など、先に配偶者が亡くなった場合についても記載すべきでしょう。
配偶者が亡くなっていた場合についての記載がなければ、絶縁状態にあった兄弟など、思わぬところへ財産が流れてしまう可能性があります。また、相続人が一人も存在しなければ国庫として国に帰属することになります。
自分の遺産が思いもよらないところに渡らないようにするためにも、配偶者が先に亡くなった場合の財産の行き先についても、忘れずに明記しておきましょう。
遺言書を作成しても配偶者が全て相続できるとは限らない
配偶者に全財産を譲る旨の遺言書を残したとしても、他の相続人に遺留分を請求された場合、全財産を相続することはできません。
1.親も相続人であれば遺留分を請求される可能性も
配偶者以外にも法定相続人が存在する場合、遺留分を請求される可能性があります。
遺留分とは、相続人が最低限確保することが法律上保障された財産のことです。たとえ遺言によって配偶者が全ての遺産を遺贈されたとしても、遺留分権者から遺留分を請求された場合は、支払わなくてはなりません。
ただし、法律で遺留分が認められているのは、子や孫などの直系卑属と親や祖父母などの直系尊属のみです。被相続人の兄弟姉妹には認められていないため、法定相続人が配偶者と被相続人の兄弟姉妹のみであれば、遺留分を請求されることはありません。
2.遺留分の計算方法
遺留分を請求された場合に、どれくらい支払わねばならないのか気になるところでしょう。
遺留分の金額は、以下の手順で求められます。
1.遺留分の対象となる「総体的遺留分」を求める
2.各遺留分権者がもらえる「個別的遺留分」を求める
①「総体的遺留分」を求める
まず、遺留分の対象となる「総体的遺留分」を計算します。総体的遺留分は、遺産金額に遺留分の割合を掛けて求めます。遺留分を請求する相続人のパターンと遺留分の割合は以下のとおりです。
遺留分を請求する相続人 | 遺産全体に対する遺留分の割合 |
---|---|
配偶者が含まれる場合 | 1/2 |
子が含まれる場合 | 1/2 |
直系尊属のみの場合 | 1/3 |
子どもがいない夫婦で、全ての遺産を配偶者に遺贈する場合、遺留分権者は親など直系尊属のみです。そのため、遺贈を受けた配偶者が遺留分として両親に渡さねばならないのは、遺産金額×1/3で算出される金額となります。
②「個別的遺留分」を求める
①で求めた「総体的遺留分」とは遺留分権者全員分の遺留分の合計金額です。この総体的遺留分を遺留分権者で分割し、それぞれがもらえる金額を算出します。
各遺留分権者がもらえる遺留分を「個別的遺留分」といい、総体的遺留分に法定相続分の割合を掛けて、その金額を求めます。
子どもがいない夫婦で、被相続人の親から遺留分の請求を受ける場合、親以外に遺留分権者は存在しません。従って、片方の親だけの場合は総体的遺留分の金額がそのまま遺留分の金額になります。一方、両親の場合は、相対的遺留分に2分の1を掛けた金額が、両親それぞれが取得できる遺留分の金額となります。
遺言書を作成していない場合はどうなるのか
遺言書を作成しなければどうなるのでしょうか。
1.他の法定相続人と遺産を分け合うことに
遺言書がなければ、配偶者以外のも法定相続人と遺産を分け合うことになります。
法定相続人とは、民法で定められた、被相続人の遺産についての相続権がある人のことです。配偶者は必ず相続権がありますが、配偶者以外の相続人には以下のとおり相続順位があり、上の順位の相続人が存在しているなら下の順位の人は相続人にはなれません。
相続順位 | 相続人 |
---|---|
第1順位 | 子や孫など直系卑属 |
第2順位 | 親や祖父母など直系尊属 |
第3順位 | 兄弟姉妹 |
被相続人に子どもや孫がいる場合、相続人は配偶者と第1順位である子や孫などの直系卑属となります。
被相続人に子どもがいない場合、相続権は第2順位の直系尊属に移るので、この場合の相続人は配偶者と親か祖父母です。
さらに、親も祖父母もいなければ、相続権は第3順位である被相続人の兄弟姉妹に移ります。この場合、配偶者と兄弟姉妹が相続人となります。
2.遺産分割協議が必要
遺言書が存在しない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、その分割方法を決めなくてはなりません。
しかし、遺産分割協議はスムーズにいかないことが多いものです。裁判所が発表している令和3年度の司法統計によると、令和2年に全国の家庭裁判所に訴えられた遺産分割事件数は13,447件でした。一方、厚生労働省が発表している「令和2年人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると令和2年の死亡数は137万2,648人でした。つまり、約100件に1件の割合で、遺産分割協議がまとまらず、裁判所に調停を申し立てているという計算になります。
たとえ親族関係が良好であったとしても、遺産分割協議ではトラブルになるケースは少なくありません。
3.子どもがいない場合の典型的なトラブル例
子どものいない夫婦が遺言書を作成しなければ、以下のようなトラブルが起きる可能性があります。
- 配偶者の親と折り合いが悪く、相続手続きに協力してもらえないため、いつまでたっても不動産の相続登記ができない
- 配偶者の親が認知症であるため、成年後見申し立てをしなければならず、相続手続きが進まない
- 配偶者の兄弟姉妹と不仲であるために、相続手続きに協力してもらえず、預貯金の相続手続きができない。経済的に困った状態に陥ってしまった
- 絶縁状態にあった兄弟姉妹にも、配偶者の遺産を相続させなければならなくなった
残された配偶者がこのような事態に陥って大変な思いをしないためにも、夫婦で遺言書を作成しておきましょう。
まとめ
今回は、夫婦で遺言書を作成する際の注意点、配偶者に全ての財産を相続させる方法や注意点などについて解説しました。
夫婦がお互いの事を思いやり、お互いのために遺言書を作成したいと思われることは非常に素晴らしい事です。有効な遺言書を残しておけば、自分が亡き後の相続トラブルも防げますし、配偶者が大変な思いをする心配もありません。
この記事で紹介した注意点を踏まえ、お互いが元気なうちに夫婦で遺言書を作成しておけば、安心でしょう。遺言書や遺産についてわからないことがあれば、専門家に相談して状況に応じたアドバイスを受けることをおすすめします。
遺言書の作成について