寄与分を証明する方法・必要な証拠は?
遺産分割にあたり寄与分を主張したけれど、他の相続人に認めてもらえず、
「どのように証明すれば納得してもらえるのだろう?」
などとお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
寄与分が認められるにはいくつかの要件を満たさねばならず、さらに寄与したことを立証するための証拠が必要です。
適切な証拠を用いて論理的に主張すれば、他の相続人も納得せざるをえないでしょう。
今回は、寄与分が認められるための要件、寄与分の類型と必要な証拠、寄与分を認めてもらうための手順、寄与分の算出方法などについて解説します。
寄与分が認められるための要件
寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に貢献したことを理由に、他の相続人よりも多く遺産を取得できる制度です。
寄与分が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
1.法定相続人であること
寄与分は法定相続人だけに認められているものであり、法定相続人以外の人に対しては認められていません。
法定相続人とは、民法で定められた、被相続人の遺産の相続権を持つ人のことです。被相続人の配偶者、子どもや孫、親、兄弟姉妹などが該当します。
家政婦や介護施設のスタッフなど第三者が被相続人の世話を継続して行っていたとしても、寄与分を主張することはできません。
2.特別の寄与であること
寄与分を主張するには、特別な労務の提供や療養看護等が行われていなければなりません。
寄与分が認められるのは、親族である法定相続人なので、単なる同居や時々の訪問、旅行の同行、入院の見舞いなどは当然のことであり、特別に遺産を取得すべき理由には当たらないと考えられるためです。
「特別」と認められるための具体的な基準は定められていませんが、自分の時間を犠牲にして付きっきりで介護や看病した、被相続人のために多額の資金を提供した、など、通常の孝行の枠を超えた、相続人全員が納得する程度の寄与でなければ認められないでしょう。
3.相続開始前までの行為であること
寄与分の主張根拠となる行為は、被相続人が亡くなる前のものに限られます。
被相続人が亡くなった後の遺産の維持や管理、法要の実施などは、寄与分の対象にはなりません。
4.対価を受けていないこと
寄与分は被相続人から対価を受けていない、無償の行為でなければ認められません。
被相続人の事業を手伝っていたことを理由に寄与分を主張する場合は、報酬をもらっていないか、もらっていたとしても著しく低い金額でなければ認められません。
また、被相続人の介護や世話をしていたことを理由に主張したとしても、被相続人に生活費を負担してもらっていた場合や、家屋や土地に無料で住んでいる場合は、認められない可能性が高いでしょう。
5.被相続人の財産維持・増加と因果関係があること
特別の寄与によって、被相続人の財産が減少することを防いだ、または増加させたという財産上の効果があったことも必要です。
精神的な支えになったなど、財産上の効果と直接結びつかないことでは認められません。
寄与分の類型と証拠
寄与分の要件を満たしていても、証拠がなければ認められません。誰が見ても納得できる資料を提出し、特別の寄与があったことを立証する必要があります。
また、寄与分にはその貢献内容によって類型があり、その立証に有効な証拠は類型によって異なります。ここでは、寄与分の類型と、有効な証拠の具体例を紹介します。
1.扶養型:被相続人の生活の世話をしていた
①扶養型とは
扶養型とは、通常の親子関係で想定される以上に、親の生活の面倒を見ていた場合のことをいいます。具体的な例としては、以下のような場合が挙げられます。
- 特定の相続人だけが定期的に仕送りをしていた
- 特定の相続人だけが親と同居し、衣食住の面倒をみていた
②扶養型の寄与を立証する証拠
また、扶養型で寄与分を主張するには、被相続人の生活費を負担していたことを立証しなければなりません。立証に有効な証拠の例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 寄与した人の預貯金通帳
- 寄与した人のクレジットカードの利用明細
- 家計簿
2.療養看護型:被相続人の介護をしていた
①療養看護型とは
療養看護型とは、被相続人の介護や看護をしていて、被相続人が介護サービスなどを利用せずに済み、財産を維持できた場合を指します。
自分の生活を犠牲にして介護や看護をしたという程度でなければならず、たまに見舞いに行ったり、自分の生活の合間に面倒をみたりという程度では認められません。
療養看護型の寄与分の例としては、以下のような場合が挙げられます。
- ほとんど寝たきり状態にあった被相続人と同居し、食事や着替えなどの面倒をみることはもちろん、早朝深夜問わず、排せつや入浴の介助や介護をしていた
- 認知症で寝たきり状態にあった被相続人と同居し、四六時中、日常的な世話をしていた
- 訪問看護サービスは利用していたが、摘便の処置や痰の吸引など、素人には難しい介護をしていた
②療養看護型の寄与を立証する証拠
療養看護型の寄与が認められるためには、被相続人の症状や要介護度、寄与分を主張する相続人が介護や看護にあたった期間や内容などを立証しなければなりません。立証に有効な証拠の例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 被相続人の診断書
- 被相続人の要介護認定通知書
- 介護の内容が記載された介護ノート
3.金銭等提供型:被相続人に金銭を贈与した
①金銭等提供型とは
金銭等提供型とは、被相続人の事業や生活のために金銭を提供した場合のことをいいます。他の類型では継続性が重視されますが、金銭等提供型では1回限りの行為でも認められることがあります。
ただし、被相続人の事業に金銭を提供しても、それが被相続人の経営する会社に対する贈与であった場合は認められません。法律上は会社と個人は別人格と考えられるため、被相続人への寄与には該当しないとみなされるためです。
金銭等提供型の具体的な事例としては、以下のような場合が挙げられます。
- 被相続人に代わって借金を返済した
- 被相続人が老人ホームに入居する際の費用を負担した
- 被相続人が開業する際に出資した
②金銭等提供型の寄与を立証する証拠
金銭等提供型では、寄与分を主張する相続人から被相続人へ金銭の贈与があったことを証明するものが証拠となります。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 被相続人の預金通帳
- 相続人の預金通帳
- 振込通知書
- クレジットカードの利用明細
- 不動産売買契約書
4.財産管理型:被相続人の財産を管理していた
①財産管理型とは
財産管理型の寄与分は、相続人が被相続人の財産を管理したことで、被相続人の財産の維持や増加に貢献したといえる場合に認められます。
具体的には以下のようなケースが該当します。
- 被相続人が所有する不動産の税金や保険料を支払っていた
- 被相続人が所有する賃貸不動産を管理していた
- 被相続人が所有する不動産の売却にあたり、住人の立ち退き交渉や手続きをした
②財産管理型の寄与を立証する証拠
財産管理型の寄与を立証する具体的な証拠としては、以下のようなものが挙げられます。
- 税金や保険料を支払ったことを示す領収証や預金通帳の明細
- 相続人が賃借人とやり取りをしていたことを示すメール
5.家業従事型:被相続人の家業に貢献していた
①家事従事型とは
被相続人の営んでいた家業に無償または相場よりも相当低い報酬で手伝い、被相続人の財産の維持や増加に貢献した場合に認められるものです。
具体的には以下のような例が挙げられるでしょう。
- 親の営む店の従業員として無償で働き、売上の増加に貢献した
- 農業を営む親を手伝い、毎日無償で農作業をして収穫の維持に貢献した
②家業従事型の寄与を立証する証拠とは
家業従事型を立証するためには、以下のような証拠が有効です。
- 相続人のタイムカード
- 相続人の給与明細書
- 被相続人の確定申告書
寄与分を認めてもらうための手順
寄与分が認められ、遺産を多く獲得するためにはどのようにすればよいのでしょうか。
寄与分を獲得するまでの具体的な手順について説明します。
1.まずは遺産分割協議で主張
まずは相続人同士の話し合いの場である遺産分割協議で主張してみましょう。
近しい関係にある親族同士であれば、法律や裁判例を厳密に問うことなく、柔軟に認めてもらえることもあります。
ただし、認めてもらうための準備はしっかり行うべきです。遺産分割協議では、相続人全員が合意に至る必要があります。一人でも異議を唱えれば成立しませんので、寄与を立証できる証拠を揃えた上で話し合いに臨みましょう。
2.裁判所に調停を申し立てる
遺産分割協議で話がまとまらなければ、家庭裁判所に「寄与分を定める処分調停」を申し立てます。
調停とは裁判所が仲介して、再度、相続人同士での話し合いを進める手続きです。裁判官の他に、調停委員が同席し、当事者の主張を聞きながら解決に向けて話を進めてくれます。調停委員には弁護士が選任されることがほとんどで、中立的な立場から法律や過去の裁判例に即した解決案を提示してくれます。
第三者が間に入ることで、当事者が冷静に話をしやすく、合意に至るケースも多くあります。
3.調停が不成立になれば審判手続きへ移行
調停手続きでも当事者が合意に至らなければ、調停は不成立となり、自動的に審判手続きへ移行します。
審判手続きとは、当事者の主張を聞いた上で裁判所が判断を下す手続きです。調停とは異なり、話し合いではないため、必ず結論が出ます。
寄与分についてよくある質問と答え
寄与分についてよくある質問に回答します。
1.法定相続人の配偶者が被相続人の介護をした場合、寄与分は認められますか?
「特別寄与料」として認められる可能性があります。
法定相続人であることは、寄与分が認められる要件の一つであり、原則として法定相続人以外には認められません。しかし、2019年の民法改正によって法定相続人以外の被相続人の親族が無償で継続的に特別と認められる寄与をしてきた場合、「特別寄与料」として認められるようになりました。
2.寄与分に時効はありますか?
ありません。
寄与分は債権ではないため、消滅時効が適用される対象とされないためです。
ただし、法定相続人以外の被相続人の親族に認められる特別寄与料には消滅時効や除斥期間があります。特別寄与料の消滅時効は、相続の開始や相続人を知ってから6か月、除斥期間は相続の開始から1年です。
まとめ
今回は、寄与分が認められるための要件、寄与分の類型と証拠となるもの、寄与分を認めてもらうための手順、寄与分の算出の仕方などについて解説しました。
寄与分を認めてもらうには、寄与分について正しく理解し、有効な証拠を用いてその事実を立証した上で主張することが大切です。
寄与分や相続についてわからないことがあれば、専門家に相談することをおすすめします。専門家から的確なアドバイスを受けることで、スムーズに解決に至る可能性が高まります。