寄与分の事例と類型を解説・認められるための要件は?
亡くなった親と1人または複数の相続人が同居しており、親の介護、生活費の負担、親の家業の手伝いなどをしていたという事情が存在するケースでは、親のために多大な労力を費やした相続人がいる一方で、全く負担がなかった相続人もいます。
そのような相続では、相続人全員を平等に扱うのは不公平だという思いが生じ、親のために多大な労力を費やした相続人が寄与分を主張したくなるのは当然のことでしょう。
しかし、寄与分は簡単に認められるものではありません。同居していた、時々親の面倒を見ていたという程度では、寄与分が認められる理由としては不十分です。
「特別な寄与」によって、財産が増えた、出費を防げたなどの事情が存在することが求められます。
今回は、寄与分とは何か、寄与分が認められるための要件、寄与分の類型、実際に認められた寄与分の事例、認めてもらうための手順などについて解説します。
【 目次 】
寄与分とは
寄与分とは、被相続人の財産の増加や維持に貢献した相続人が、他の相続人よりも遺産を多く取得できる制度のことをいいます。
寄与分が認められるためには、被相続人への貢献が特別なものと認められる程度のものでなければなりません。単に同居をして、自分の生活の合間に面倒をみていたくらいの一般的な孝行では不十分で、自分の時間のほとんどを犠牲にするなど、誰もが納得するほどの多大なる貢献をしていなければ認められないでしょう。
さらに、その貢献によって被相続人の財産が増えたり、出費を防げたりしたという事実も必要です。
寄与分が認められるための要件
寄与分が認められるには、以下の要件を満たす必要があります。
1.法定相続人であること
寄与分を主張できるのは法定相続人だけです。
法定相続人とは、民法で定められた、被相続人の遺産の相続権を有する人のことであり、被相続人の配偶者、子や孫、親や祖父母、兄弟姉妹などが該当します。
おじやおば、いとこ、全くの他人などは寄与分を主張できません。
2.「特別の寄与」であったこと
寄与分として認められるには、その寄与が被相続人に対しての貢献が通常の孝行や介護を超えた特別のものであったと認められる必要があります。
しかし、具体的にどのような事情が「特別の寄与」に相当するかについては、明確な定義はありません。相続人同士の話し合いによって認否を決めるか、決められない場合は裁判所の判断に委ねることとなります。
裁判所手続きでは、民法で定められた下記の義務を超えた貢献であるかどうかが判断の基準となっています。
- 第730条「直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない。」
- 第752条「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」
- 第877条「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」
3.相続開始前までの継続的な行為であること
継続性も、寄与分として認められるための重要なポイントです。
例えば、仕送りをしていた場合、長期に渡り継続的に行われていたことが求められます。一回や数回程度では、認められないでしょう。
4.対価を受けず無償でおこなったこと
寄与分は、報酬を受け取っていないか、受け取ったとしても相場よりも相当少ない額でないと認められません。
たとえ自分のやりたい仕事を諦めて、被相続人の事業の手伝いを続けてきたとしても、相応の給与が支給されていた場合、寄与分は認められません。
また、献身的に介護をしていたとしても、生活費を出してもらっていたなど、何らかの報酬を受け取っていた場合は認められないでしょう。
5.寄与によって財産の維持や増加があったこと
相続人の寄与により、被相続人の財産からの支出を防げた、または財産を増加させたという事実が存在することも重要なポイントです。
例えば、被相続人の介護や看病をしたことを理由に寄与分を主張するなら、それによって介護サービス利用料や訪問看護料の支出を抑えられたといえなければなりません。
たとえ介護や看病をしていたとしても、被相続人が第三者サービスを利用する必要のない状態であった場合、相続人の貢献が財産の維持に結び付いたとはいえず、寄与分の主張はできません。
寄与分の類型
寄与分が認められるケースは大きく5つに分類されます。それぞれの類型について説明します。
1.扶養型
扶養義務の範囲を超えて被相続人を扶養していた場合です。
病気や怪我などのために自力で生活できない被相続人の生活費を負担したなどのケースが該当します。
ただし、民法第730条で規定されている通り、同居の親族には互いに扶養義務があるため、元から同居していた場合は認められません。
2.療養看護型
被相続人の看護や介護をしていた場合です。
ただし、寄与分として認められるためには、その献身性が通常の範囲を超えていることが求められます。看護・介護サービスを利用し、スタッフの訪問時以外の短時間世話をしただけでは認められないでしょう。一日中、ほぼ付ききりで世話をしたというくらいでなければなりません。
さらに、相続人の寄与によって被相続人の財産が維持できたかという点も大切なポイントです。当該相続人がいなければ、被相続人の財産からの支出があったことが認められなければなりません。
3.金銭等提供型
被相続人に金銭を提供した場合です。
不動産の購入や、介護施設への入居費を出したケースなどが該当します。
ただし、被相続人が経営する会社へ金銭を提供した場合は、注意が必要です。法律では、会社と個人は別人格と捉えられ、被相続人への金銭の提供とはみなされないため、寄与分の主張は難しいでしょう。
4.財産管理型
被相続人に代わって、被相続人所有の財産を管理し、財産を維持できたり増加させられたりした場合です。
例えば、被相続人の所有する不動産の売却手続きにより財産を増加させた場合、賃貸不動産の管理により財産を維持した場合などが該当します。
5.家業従事型
被相続人が営む家業を手伝った場合です。
ただし、相続人が提供した労力に対して賃金が支払われていないか、支払われていたとしても相当低い額である場合に限られます。
実際に認められた寄与分の事例
理解をより深めるために、寄与分が認められた実際の事例をご紹介します。
1.扶養型の事例
相続人は8人兄弟であり、相続人の一人が、長年に渡り、被相続人である父の生活の面倒を全面的にみていました。負担した生活費は800万円以上にものぼり、当該相続人の負担によって被相続人の財産が維持されたとして寄与分が認められました。
2.療養看護型の事例
重い痴ほう症を患い、寝たきりであった被相続人の介護を、特定の相続人だけが10年以上続けてきました。その貢献により介護サービスを利用せずに済んだことが認められ、当該相続人は寄与分として1,000万円以上取得しました。
3.金銭等提供型の事例
被相続人である夫の生前、不動産を購入しましたが、その購入資金は夫婦二人で出し合いました。この事実を考慮し、妻に対して寄与分が認められました。
4.財産管理型の事例
当該相続人が、被相続人が所有する賃貸マンション数棟を管理していたため、管理会社に委託することなく、管理費の支払いを免れられました。被相続人の財産の維持に貢献したとして、寄与分が認められました。
5.家業従事型の事例
相続人である妻は、被相続人である夫の農業を、40年以上の間、手伝い続けてきました。さらに同じく相続人である長男も、無報酬で30年近く、家業に従事してきました。家業に従事した期間に応じた寄与分が妻と長男に認められました。
寄与分を認めてもらうための手順
他の相続人に寄与分を認めてもらうには、どうすればよいのでしょうか。具体的な手順について説明します。
1.まずは遺産分割協議で主張
遺言書が存在しない限り、必ず相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。寄与分を主張したい場合、まずは遺産分割協議の場で話してみましょう。
ただし、他の相続人が寄与分を認めなかったり、認めたとしても金額について揉めたりするケースが多いです。自分の貢献について過不足のない額の寄与分を得るためにも、証拠を準備のした上で遺産分割協議に臨むことが大切です。
寄与分を証明するために有効な証拠については、こちらの記事で説明していますので、参考にしていただければと思います。
参考記事:寄与分を証明する方法・必要な証拠は?
2.話がまとまらなければ調停を申し立てる
遺産分割協議で話がまとまらなければ、家庭裁判所に「寄与分を定める処分調停」を申し立てます。
調停とは、裁判所に仲介してもらい、もう一度当事者同士で話し合いをする手続きです。裁判官の他に、調停委員と呼ばれる法律の専門家が同席して話を進めてくれます。調停委員は中立的な立場から法律に則った解決策を提示してくれます。第三者を介すことで当事者が冷静に話をしやすいため、解決に至る可能性が高くなります。
申し立て方法は裁判所の公式サイト内の下記のページに記載されています。申立てをする際はご参照ください。
参考URL:寄与分を定める処分調停(裁判所公式サイト)
3.調停が不成立となれば審判手続きへ移行
調停手続きでも当事者同士が合意に至らなければ、調停は不成立となり、自動的に審判手続きへ移行します。
審判手続きとは、裁判所が当事者の主張を聞いた上で、寄与分を認められるかを判断し、認められる場合は金額を決定する手続きです。
審判の結果に不満がある場合は、告知を受けた日の翌日から2週間以内であれば、即時抗告をして異議を申し立てることができます。
まとめ
今回は、寄与分とは何か、寄与分が認められるための要件、寄与分の類型、実際に認められた寄与分の事例、寄与分を認めてもらうための手順などについて解説しました。
寄与分は、被相続人に貢献したご本人は認められて当然だと思っても、実際に認められるのは簡単ではなく、遺産分割協議がまとまらないケースも少なくないでしょう。
寄与分や相続についてわからないことや困ったことがあれば、専門家に相談することをおすすめします。的確なアドバイスを受ければ、解決できることもあるはずです。