遺言書がある場合の遺産相続手続き方法と必要書類・注意点

相続が発生して手続きを進める前に、遺言書の存在を確認する必要があります。

遺言書は自身の死後、財産を相続人へどのように分配するのかを意思表示できる法的な手段です。

その効力は強く、被相続人が遺言書を作成し自身の財産分配について決めているため、相続人は被相続人の意思を尊重し、遺言通りに相続手続きを進める必要があります。

遺言書が発見された場合、どのように相続手続きを進めると良いのでしょうか。また、遺言書とは異なる遺産分配をすることは可能なのでしょうか。

遺言書がある場合の遺産相続手続き方法や注意点について詳しく解説します。

1.遺言書を発見した場合どうすればよいか

1.公正証書遺言が発見された場合

公正証書遺言が発見された場合は検認の必要がありませんので、遺言書の記載内容を確認し、記載の通りに遺産相続手続きを進めます。遺言書に遺言執行者が記載されている場合は、遺言執行者が手続きを進めていきます。遺言執行者とは、相続財産の管理や遺言執行に関する権限を有し、遺言通りに相続手続きを執行する人のことです。

公正証書遺言とは、遺言者が遺言内容を公証人へ口頭で伝え、公正証書として作成した遺言書です。そのため、形式不備や遺言内容の無効は考えられず、実現性の高い遺言だといえます。原本は公証役場で保管されているため偽造・紛失の可能性がありません。

また、公正証書遺言の有無は公証役場の遺言検索システムで検索することができます。

検索ができるのは生前は遺言者に限られますが、遺言者の死後は相続人や遺言執行者などの利害関係人が検索することが可能です。

 

2.自筆証書遺言が発見された場合

自筆証書遺言が発見された場合、開封しないように気をつけましょう。

発見した場合は、まず家庭裁判所で検認を受け、その後、遺言内容に従って相続手続きを進めていきます。

相続人が開封すると改ざんや偽造を疑われる可能性があるため、開封をせずに家庭裁判所に提出しなくてはなりません。検認前に開封した場合は5万円以下の過料が科せられます。

また、自筆証書遺言は遺言者が自分一人で作成することができる遺言書であるため、形式不備などの可能性もあり、遺言が無効になるケースもあります。

 

3.秘密証書遺言が発見された場合

秘密証書遺言が発見された場合は、自筆証書遺言と同様に家庭裁判所の検認を受けなければなりません。

検認作業終了後に遺言内容に従って遺産相続手続きを進めていきます。

秘密証書遺言は、遺言内容を誰にも知られずに秘密にできる遺言書です。公証人と証人2人に遺言書の存在を証明してもらい、遺言内容を公証人や証人が見ることはありません。

遺言内容を他人に知られることなく、遺言書の存在のみを示すことのでるというメリットがあります。

しかし、遺言内容を公証人が確認をしているということではありませんので、不備により無効となる可能性もあります。利用数は大変少ない遺言形式です。

 

2.遺言書と異なる遺産分割と法定相続分・遺留分の関係

1.相続人全員の合意があれば遺言書と異なる遺産分割も可能

前述の通り、遺言書は被相続人が自身の財産を死後どのように分配するのかを意思表示したものです。

法的効力は強く、書式不備がなければ遺言書記載の通りに遺産相続手続きを進めることになります。

ただし、相続人全員の合意があれば遺言書と異なる遺産分割も可能です。1人でも相続人が欠けた遺産分割協議での合意は無効ですので注意しましょう。

 

2.遺言書は法定相続分よりも優先される

相続財産について遺産分割協議がまとまらない場合、原則、法定相続分通りに財産を分配します。

ただし、遺言書が発見された場合は法定相続分よりも遺言が優先されますので、遺言内容の通りに相続手続きを進めます。

法定相続分とは民法で規定されている各相続人が相続財産を取得する割合の目安です。

しかし、遺言は被相続人の意思を示したものであり、その効力は法定相続分よりも優ります。

また、法定相続分通りに遺産を分配すると、被相続人の生前の療養介護をしていたか等により、相続人間で不公平感が生じ、トラブルになる可能性があります。そのため、法定相続分通りに遺産分配されることはほとんどありません。遺言書がない場合、一般的に、遺産分割協議で合意して相続手続きを進めていきます。

遺産分割協議で合意できない、話し合いができないケースなどでは、原則として法定相続分通りに分配されます。

 

3.遺言であっても遺留分を侵害することはできない

 遺留分とは兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保証されている遺産取得分です。

法定相続分通りでの遺産分配よりも遺言内容が優先されますが、遺言であっても遺留分を侵害することはできません。万が一遺留分を侵害した遺言内容であった場合、遺留分侵害額請求をされる可能性があります。ただし、請求は任意であるため、遺留分を侵害していても請求されない可能性もあります。

また、遺留分を侵害された価額に相当する金銭の賠償請求になりますので、請求された場合は相続財産を返却するのではなく、金銭で支払う必要があります。

 

※2019年の法改正以前、遺留分侵害額請求は「遺留分減殺請求」といわれており、遺留分を侵害している場合に遺産を取り戻す権利でした。しかし、法改正後は遺留分侵害を受けた場合に金銭を支払う手続き方法に変更されています。

 

3.遺言執行者が選任されている場合

遺言書があり遺言執行者(遺言執行人)が選任されている場合、遺言執行者が遺産相続に必要な手続きを進めていきます。

遺言執行者は相続人全員の代理人として預金の解約手続き・不動産の相続登記手続き、遺産の分配など、遺言書記載通りの内容実現に努めます。その際、遺産手続きについてのアドバイスや意見などを述べることはなく、遺産相続手続き業務を全うすることに注力します。

相続人のうち一人を代表者に決め、遺言執行者に選任されていることもありますが、相続争いやトラブルになる場合もあります。そのため、遺言書などで、司法書士や弁護士など相続の専門家である第三者を遺言執行者として指定されるケースが多いようです。

遺言執行者が選任されていないケースでは遺産分割協議にて遺言執行人を選任します。その際、相続人の中から選任することもできますが、専門家に依頼した方がスムーズに手続きを進めることができるでしょう。

 

4.遺言書がある場合の相続手続きの流れ

 遺言書がある場合、遺言書の種類により、相続手続きの手順が異なります。公正証書遺言である場合は検認手続きが不要なので、すぐに遺産相続手続きを開始することができます。

遺言書がある場合の相続手続きの主な流れは以下の通りです。

 

  • 死亡時の預貯金残高 × 法定相続分 × 3分の1
  • 遺言書の種類を確認(公正証書遺言・自筆証書遺言・秘密証書遺言など)
  • 検認申し立て(自筆証書遺言、秘密証書遺言の場合)
  • 検認期日に裁判所へ出向く
  • 検認済証明証を申請する
  • 財産調査
  • 相続人調査
  • 相続人同士での話し合い
  • 相続方法の決定と手続きの開始
  • 相続税の申告と納付

 

1.自筆証書遺言と秘密証書遺言は検認手続きが必要

前述の通り、自筆証書遺言と秘密証書遺言は検認手続きが必要なので、遺品から発見されてもすぐに開封してはいけません。家庭裁判所で検認手続きを受けた後に遺言内容に沿って相続手続きを進めていきます。検認前に開封した場合、5万円以下の過料が科せられます。

検認は、遺言内容を明確にし、遺言の変造・偽造を防止するために必要な手続きであるとされています。検認手続きを経ていない自筆証書遺言と秘密証書遺言の場合、不動産や預貯金口座の名義変更手続きをすることはできません。

2020年7月10日に開始された自筆証書遺言書保管制度を利用した場合は検認を受ける必要はありません。ただし、保管制度を利用する時に、遺言の内容や形式等が法律で定められた要件を満たしているか確認してもらえるわけではなく、法律で定められた形式を満たさない遺言であれば無効になるケースもあります。

 

2.相続財産調査と相続人調査

遺言の有無に関わらず、相続財産調査と相続人調査は行いましょう。

借金などの負債や相続したくない財産のある場合には相続放棄手続きを検討する必要があります。また、プラスとマイナスの財産額が不明な場合や、次順位相続人へ迷惑がかからないように相続手続きを進めたい場合に限定承認手続きを検討した方がよい場合もあります。いずれの手続きも、自身が相続人となったことを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申し立てる必要があります

相続人調査についても行うことをおすすめします。

ご自身のご両親や配偶者や子が相続人の場合、知らない相続人がいるということはほとんどありません。

しかし、稀に知らないうちに被相続人が養子縁組をしているケースや認知している子の存在が明らかになるケースがあります。養子縁組や認知している子は相続人となりますので、必ず相続人調査を行いましょう。

 

3.相続方法の決定(相続・相続放棄・限定承認)

相続をする場合は家庭裁判所で発行された検認済証明書と遺言書を利用して不動産の名義変更手続きや預貯金口座の解約などの手続きを進めていきます。

相続する場合の手続きは特に決められた期限はありませんが、相続開始より時間が経過すると名義変更手続きに不都合が生じる可能性がありますので早めに手続きを済ませましょう。

相続放棄や限定承認手続きをする場合は、ご自身が相続人であることを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所へ申し立てを行います。その際、ご自身の相続順位によって必要書類が異なりますが、戸籍謄本の取得は非常に手間取る作業となります。申し立て期限は3ヶ月と限られているため、手続きに慣れた司法書士などの専門家に依頼すると良いでしょう。また限定承認手続きは煩雑な手続きであるため専門家に依頼しましょう。

 

4. 遺言書と異なる財産分配をする場合は遺産分割協議で合意する

遺言書がある場合は遺言書の通りに手続きを進めます。

しかし、遺言内容に納得のできない場合や遺言通りに財産分配をすると問題が発生するケースがあります。

そのようなケースでは相続人全員で遺産分割協議を行い、全員が合意した内容であれば遺言と異なる方法で財産分配をすることが可能です。

協議後は遺産分割協議書を作成し、相続人全員の署名と実印の押印が必要になります。

 

5.相続税の申告

相続税の申告期限は相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内と決められています。

10ヶ月以内に、相続税申告書の提出と相続税の納付をしなくてはなりません。

相続税申告書は被相続人の最後の住所地を管轄する税務署に提出します。

相続税については税理士に相談すると良いでしょう。

 

5.遺言書のある相続手続きに必要書類とかかる費用

1.遺言書がある相続手続きに必要な書類

遺言書のある場合の必要書類は以下の通りです。

遺言執行者の有無で必要書類が若干異なります。

①遺言執行者がいる場合

  • 被相続人の戸籍謄本
  • 遺言書
  • 検認済証明書(※自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合)
  • 遺言執行者選任審判書謄本く
  • 遺言執行者の印鑑登録証明書

 

②遺言執行者がいない場合

  • 被相続人の戸籍謄本
  • 遺言書
  • 検認済証明書(※自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合)
  • 相続人の印鑑登録証明書

 

2.遺言書がある相続手続きにかかる費用

遺言書がある場合、ご自身で手続きを行えば、戸籍や住民票などの必要書類を収集する実費程度で済みます。

実費以外にかかる費用は以下の通りです。

  • 遺言執行者が決められていれば遺言執行者への報酬
  • 相続手続きを司法書士や弁護士の依頼する場合はその報酬

 

遺言執行者が遺言書で指定されている場合は原則としてその執行者が遺言執行を行うため、報酬は必ずかかります。相続人以外の、司法書士や弁護士などの専門家が選任されている場合もあります。

相続登記や預貯金口座解約相続手続きなどの手続きはご自身で行うこともできますが、専門家へ依頼すると必要書類の収集なども代行してもらえるのでスムーズに進みます。

特に不動産の相続登記は専門的な手続きになりますので司法書士へ依頼することが通常です。

 

6.遺言書のある相続手続きの注意点

1.遺言書執行に期限はあるのか

遺言書の執行に相続放棄や限定承認のような期限は特にありません。

ただし、以下の手続きには期限があるため、遺言書の執行手続きは相続開始後速やかに進めましょう。

相続発生後4ヶ月以内 準確定申告(被相続人の生前の所得税についての確定申告)が必要なケース
相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内 相続税の申告

また、不動産や預貯金口座などの名義変更手続きをしないまま長期間経過すると、相続人が死亡し、新たな相続が開始されるなど、相続手続きが複雑になる恐れもあります(数次相続)。

登記上の名義が被相続人の場合、実際には自身が相続していても名義変更をしていない場合は、第三者に対して権利を主張することはできません。相続した際は速やかに名義変更手続きを行いましょう。

 

2.遺言書が複数存在する場合

遺言書が複数ある場合、遺言書に記載されている日時が最も新しいものが有効な遺言書となります。

そうすることで被相続人の意思に最も沿う形で遺産相続ができると考えられます。遺言書の日時や内容について判断が難しい場合には、専門家へ相談しましょう。

 

3.遺言書に記載のない財産がある場合

相続財産調査をすることで、遺言に記載されている以外の財産や負債が発見される可能性があります。

遺言を作成した時点では遺言に記載されている通りの財産内容であっても、その後、プラスやマイナスの財産が発生しているケースもあります。

その場合は相続人全員で遺産分割協議を行い、相続人全員の合意によって手続きを進めましょう。

 

4.遺言書の内容に納得できない場合

遺言は被相続人の意思が示されているため記載の内容に従いますが、様々な理由で遺言内容に納得のできない内容のある場合や、遺言通りに相続をすると相続人に不都合なケースもあります。

そのようなケースでは相続人全員で遺産分割協議をして、全相続人の合意があれば、遺言内容と異なる遺産分割手続きをすることも可能です。ただし、相続人が1人でも合意しない場合は無効ですので注意しましょう。

 

5.受遺者は遺贈を放棄することが可能

遺贈とは、相続人または相続人以外の人へ遺贈者(遺産を贈る人)の財産の全部または一部を、受遺者(遺産を受け取る人)に無償で贈ることです。

一般的には遺贈者が遺言書に受遺者へ財産を遺贈する旨を記載します。

ただし、遺贈は生前贈与とは異なり、受遺者の同意が必須ではないため、受遺者が遺贈の受け取りを拒否することもできます。

遺贈には、包括遺贈と特定遺贈の2つの種類があり、それぞれ遺贈を放棄する方法と期限が異なります

【 包括遺贈 】

  • 遺産全体の割合を遺贈すること。例えば「全財産の4分の3をAに遺贈する」など
  • 自分に包括遺贈があったことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所へ放棄申請する

【 特定遺贈 】

  • 特定の財産を指定して遺贈すること。「A社の株式をBにあげる」など
  • 放棄の期限はなく、相続人へ遺贈を放棄すると伝える。家庭裁判所へ手続き申述の必要なし。

 

まとめ

今回は遺言書がある場合の遺産相続手続き方法と必要書類・注意点について解説しました。

遺言にも様々な種類があり、それぞれの遺言書によって手続き方法が異なりますので、遺言書の種類に応じた正しい手順で対応しなくてはなりません。特に自筆証書遺言や秘密証書遺言は検認前に開封することは禁止されており、開封した場合は過料が課せられるなど罰則もあります。

遺言内容通りに相続すべきなのか、相続人同士でも話し合うべきなのか、借金の有無など、決められた期間内に総合的に考えて判断しなくてはならず、また場合によっては家庭裁判所へ申述する手続きを選択する可能性もあります。相続手続きは専門的な知識も必要な上に、手続き書類の収集も手間と時間のかかるケースが多いので、専門家へ依頼してスムーズかつ確実に手続きを進めると良いでしょう。

また、遺言書作成は形式不備の場合は無効になり、遺留分など考慮せずに作成すると相続人間でトラブルになる可能性があります。自筆証書遺言も法改正により以前よりは利用しやすくなりましたが、確実に執行可能な遺言を作成するためには、相続に詳しい専門家にサポートしてもらうことをおすすめします。相続に詳しい司法書士などの専門家に相談すると、生前対策や相続発生後の手続きなどについて様々な提案をしてもらえます。

また、遺言の執行を相続人の中から選任すると相続人同士でトラブルになる可能性がありますので、遺言執行人が選任されていない場合は専門家への依頼を検討しましょう。