株式と国債の相続手続き〜名義変更の方法と必要書類・流れ
被相続人の相続財産に株式や国債など債権が含まれる場合、被相続人名義のままでは売却や譲渡はできません。
所定の相続手続きを行い、相続人へ名義変更をする必要があります。しかし相続発生後、株式や国債は相続人全体の共有財産になり、個別に法定相続分を請求し受け取ることはできませんので、相続人全員でどのように遺産分割するのかを早急に話し合う必要があります。また、株式の相続は上場株式と非上場株式とでは手続き方法が異なります。
株式や国債を相続した場合、どのように手続きを行うのか、必要書類や注意点も含めて解説します。
【 目次 】
1.上場株式を相続する場合の名義変更手続き
上場している株式は、平成21年1月5日から電子化され、紙に印刷された上場会社の株券は無効となりました。
電子化以降は証券会社など金融機関の口座または証券保管振替機構(通称:ほふり)で電子データ管理されています。この電子化制度開始時に電子データへ移管されていない株券は、株券の発行会社指定の金融機関に株主名義の「特別口座」が開設され保管されており、株式の権利は有効です。
しかし、被相続人名義のため相続手続きをしなければ売買できず、現金化できません
1.証券会社に取引口座がある場合の株式名義変更手続き
預証券会社は顧客別に取引口座を開設し管理しています。遺産分割協議で相続人が決定したら必要書類を準備して取引口座の名義変更手続を行いましょう。
各金融機関所定の届出書が必要となりますので、相続手続きに関する書類を取り寄せ手続きを行いましょう。一般的には以下のような書類が必要です。
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで連続したもの)
- 相続人の戸籍謄本
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
- 遺言書・検認済み証の写し(遺言書がある場合)
2.株式発行会社との株式名義変更手続き
証券会社の取引口座名義変更手続き終了後、株式発行会社の株式名簿名義変更手続きを進めます。こちらの手続きは通常、証券会社に代行してもらえます。その際、相続人全員の同意書が必要になります。
2. 非上場株式を相続する場合の名義変更手続き
1.非上場株式の名義変更手続き
非上場株式とは上場株式以外の株式のことです。非上場株式の中でも規模の大きい会社もありますが、同族経営している会社の自社株であるケースも多いです。
遺言で相続人が指定されていない限り、相続発生と同時に相続人全員の共同財産になりますので、事業承継しない相続人であっても自社株を引き継ぐ権利があります。
しかし、安定した事業運営のためには事業後継者が自社株を保有することが望ましいので、相続人間同士でよく話し合い相続手続きを進めましょう。
非上場会社の株式の相続手続きは、証券会社は原則関わっていないため、株式発行会社と相続手続きを進めていきます。まずは遺産分割協議で、全相続人が株式を含む相続財産の分配について話し合い、合意内容を記載した遺産分割協議書写しやその他必要書類を株式発行会社へ提出します。
株式発行会社はその遺産分割協議書に基づいて株式の名義書換手続きを行います。
2.非上場株式の評価額
非上場株式の評価方法は、国税庁が作成し公開している「取引相場のない株式等の評価」に基づき評価します。
非上場株式の評価方法は「原則的評価方式」である類似業種比準方式と純資産方式の2方式と、その両方を採用する併用方式があり、会社の規模によって下記方法で算定します。
【 非上場株式の評価方法の種類 】
- 類似業種比準方式
- 評価対象の非上場株式と事業内容が類似する上場会社の株式価額を参考にして、評価対象である非上場会社1株あたりの評価額を決める評価方式
- 純資産方式
- 仮に会社が解散した場合に株主への返却金額をもとにして株式価額を決定する評価方式
会社の規模 | 評価方式 |
大規模会社 | 類似業種比準方式 |
小規模会社 | 類純資産方式 |
中規模会社 | 類似業種比準方式・純資産方式の併用方式 |
【会社規模と従業員数】
会社の規模詳細 | 従業員数 |
大規模会社 | 70名超 |
中の大規模会社 | 70名未満 35名超 |
中の中規模会社 | 35名未満 20名超 |
中の小規模会社 | 20名未満 5名超 |
小規模会社 | 5名未満 |
【会社規模と純資産額】
会社の規模 | 卸売業 | 小売・サービス業 | 左記以外業種 |
大規模会社 | 20億円以上 | 15億円以上 | 15億円以上 |
中の大規模会社 | 20億円未満 4億円以上 | 15億円未満 5億円以上 | 15億円未満 5億円以上 |
中の中規模会社 | 4億円未満 2億円以上 | 5億円未満 2.5億円以上 | 5億円未満 2.5億円以上 |
中の小規模会社 | 2億円未満 7千万円以上 | 2.5億円未満 4千万円以上 | 2.5億円未満 5千万円以上 |
小規模会社 | 7千万円未満 | 4千万円未満 | 5千万円未満 |
【会社規模と年間取引金額】
会社の規模 | 卸売業 | 小売・サービス業 | 左記以外業種 |
大規模会社 | 30億円以上 | 20億円以上 | 15億円以上 |
中の大規模会社 | 30億円満 7億円以上 | 20億円満 5億円以上 | 15億円満 4億円以上 |
中の中規模会社 | 7億円満 3.5億円以上 | 5億円未満 2.5億以上 | 4億円満 2億以上 |
中の小規模会社 | 3.5億円満 2億円以上 | 2.5億未満 6千万円以上 | 2億円満 8千万円以上 |
小規模会社 | 2億円未満 | 6千万円未満 | 8千万円未満 |
上記3つの分類で該当する会社規模を確認し、さらに下記①②の条件に照らし、自社の規模を判定します。 ただし、従業員数70名以上の場合は純資産価値や年間取引金額に関わらず、大規模会社に分類されます。
- ① 「従業員数」と「純資産価値」を比較し、いずれか小さい方の会社規模
- ② 「①」と「取引金額」とを比較し、大きい方の会社規模
また、同族株主の含まれる会社の株式(自社株)の評価方式は、下記方式で算定されます。
- 原則的評価方式
類似業種比準方式又は純資産価額方式、若しくは2つの併用方式 - 特例的評価方式
配当還元方式
同族株主であるか否か、議決権割合・事業でどのような役職についているか、など判定条件や基準が複雑です。このようなケースは株式の相続手続きに詳しい専門家へ相談し、手続きを依頼することをお勧めいたします。
- 配当還元方式
過去2年間の配当金額を10%で割戻し、非上場会社の株価を求める方法
3.国債を相続する場合の必要書類と手続き
国債とは日本国政府が資金調達のために発行する債権です。
日本国政府が発行することや、元本の支払いに不安要素が少ないなどのメリットもあります。また、個人向け国債は1万円から購入可能で、定期預金などと比べるとまとまった金額が必要でないことから、利用しやすく人気の金融商品です。
1.国債は相続財産として扱われる
国債は法的には金銭債権とされており、相続財産として扱われます。
また、以前は法定相続人であれば法定相続割合に応じて請求可能とされていましたが、2016年2月25日の最高裁判決より、共同相続された個人向け国債について「相続発生と同時に相続人全員の共有財産となるため、遺産分割の対象となる」という判断が示され、相続人が個々の相続分として請求することができなくなりました。
"本件国債は、個人向け国債の発行等に関する省令2条に規定する個人向け国債であるところ、個人向け国債の額面金額の最低額は1万円とされ、その権利の帰属を定めることとなる社債、株式等の振替に関する法律の規定による振替口座簿の記載又は記録は、上記最低額の整数倍の金額によるものとされており(同令3―4-条)、取扱機関の買取りにより行われる個人向け国債の中途換金(同令6条)も、上記金額を基準として行われるものと解される。
そうすると、個人向け国債は、法令上、一定額をもって権利の単位が定められ、1単位未満での権利行使が予定されていないものというべきであり、このような個人向け国債の内容及び性質に照らせば、共同相続された個人向け国債は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。”
(最高裁判所第三小法廷平成26年2月25日判決より一部抜粋)
2.国債の相続手続に必要な書類と流れ
国債を相続するためには、預貯金や株式の相続と同様に、名義変更手続きが必要です。
まずは、国債を預けている信託銀行や証券会社などの金融機関から残高証明書を取得し、被相続人の相続財産調査や相続人調査を行い、遺産分割協議を進めます。
金融機関により所定の届出用紙などは異なりますが、一般的な国債の相続手続きに必要な書類は下記の通りです。
【 国債の相続手続きに必要な書類 】
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(または除籍謄本)
- 被相続人の死亡がわかる戸籍謄本(または除籍謄本)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 遺産分割協議書
- 遺言書(遺言がない場合は不要)
- 各金融機関所定の名義書換依頼書など
3.国債の遺産分割方法
国債の相続手続きが終わったら、相続人に名義変更してそのまま継続するか途中解約して換金するかを選択します。
個人向け国債は1万円単位で分割することが可能で、換金せずに国債の額面を遺産分割することもできます。
しかし、相続人数によっては端数が発生する可能性があるため、換金して遺産分割することが一般的です。
4.株式・国債を相続する場合の注意点
1.相続税の申告が必要なケース
相続税は財産種類に関係なく、相続財産の合計金額により発生します。
そのため、それぞれの財産について定められた方法で評価額を計算します。
株式は前述の通り上場株式か非上場株式か、また会社規模などで株式評価の算定方法が異なります。特に非上場株式は市場で取引されていないため価格が決まっておらず、自身で評価算定しなければなりません。複雑で手間がかかる作業になります。
個人向け国債は被相続人の死亡日が相続発生日となり、その日に中途解約した場合の金額に応じて評価額が決定します。
国債の代表的商品である個人向け国債「変動10年型」は、購入1年未満は換金できません。相続による解約の場合は購入1年未満でも売却が認められていますが、中途換金調整額を支払わなければなりません。
- 「 個人向け国債の相続税評価額 」
- = 額面金額 + 経過利子相当額 - 中途換金調整額
個人向け国債を中途解約する場合の経過利子相当額・中途換金調整学の算出方法は財務省ホームページに掲載されていますので、その評価額より相続税を算出すると良いでしょう。
【財務省HP:「中途換金シミュレーション」】
2.株式は生前贈与により節税できる
生前贈与は、贈与者(贈与する人)と受贈者(贈与される人)が双方合意の上で成立する契約で、生前に自身の財産を無償で贈与することで相続税の軽減や納税資金の確保など、相続対策として効果的な方法です。
株式の生前贈与である「株式贈与」は相続税対策になるケースがありますが、株価は変動しますので一概に節税対策として有効であるとは言い切れません。しかし、将来相続時に株価が高騰し、高額な相続税が課税されることも考えられます。
また、配当金は受贈者が受け取りますので相続財産の抑制効果にもなり、年間あたりの配当金は少額であっても数十年配当金を受領していくと高額になるケースもあり、節税効果も期待できます。
自社株などの非上場株であっても上場株価に連動しますので、生前に対策をしておくことは有効であると言えるでしょう。
生前贈与は口頭でも法的には有効ですが、相続時にトラブルとなりやすいので、書面で契約書を作成しておきましょう。生前贈与は、贈与者と受贈者双方の契約になりますので、遺言書ではなく契約書になります。
生前贈与は年額110万円という基礎控除額があり、年間110万円以下であれば贈与税がかからない制度になっています。同様に、株式も評価額が110万円以下であれば贈与税はかかりません。
3.株式や国債の相続手続きは専門家へ依頼
株式や国債の相続手続きは、名義変更手続きで必要な戸籍謄本などの書類収集も手間と時間がかかり、遺産分割協議時に相続人同士で意見が合わずトラブルになるケースもあります。
また、株式を多数所有している場合、それぞれ口座のある信託銀行や証券会社などに連絡をし、手続きをしなくてはなりません。
株式や国債を含む相続手続きを相続人だけで進めることは大変な負担となるケースもあります。司法書士など相続手続きに長けた専門家へ手続きの対応を依頼することで、確実且つスムーズに手続きを進めることができます。
また、非上場株式の含まれる相続手続きは税金面も考慮して、税理士等に相談されることをおすすめいたします。
まとめ
今回は相続財産に株式や国債が含まれる場合の相続手続き方法と必要書類、注意点について詳しく解説しました。
相続財産に株式や国債が含まれる場合、名義変更手続きをするための書類収集に時間がかかり、相続人同士で話し合いがまとまらないことも想定されます。また、株式の評価が高く資産価値があるとしても、被相続人に借金があり、株の評価額や国債の額面を上回るマイナス資産が含まれるケースもあります。そのようなケースでは相続放棄も検討しなくてはなりません。
しかし、被相続人に負債があっても、事業を承継するケースでは相続放棄をすると事業承継ができなくなる可能性があるため限定承認も検討する必要があります。相続全体の状況を把握しないまま結果を想定せずに手続きを進めてしまうと、思いもよらない事態に陥る可能性があるため注意が必要です。
このように、株式や国債を含む相続手続きは特に複雑で手間もかかりますので、実務経験のある専門家在籍の司法書士事務所や行政書士事務所などへ依頼し、スムーズに相続手続きを行いましょう。