生命保険と遺族年金|支給要件や請求方法を解説
「一家の大黒柱に万一のことがあったとき、残された家族にどのようなお金がどれくらい入るのか知りたい」と考えて、遺族年金や生命保険について調べている方もいらっしゃるでしょう。
しかし、制度が複雑でわかりにくいことも多いので、「遺族年金と生命保険はどう違うの?」「いつまでもらえるの?」など、疑問が尽きないという方もいらっしゃるかもしれません。
遺族年金には、加入している年金に応じて2種類あり、その種類によって支給要件や金額が異なります。自分のケースでは、残された家族は遺族年金を受給できるのか、受給できるならいくらもらえるのかを知り、万一の事態に備えましょう。
今回は、遺族年金の種類、遺族基礎年金・遺族厚生年金の概要、遺族年金の請求方法、生命保険の受取り方法などについて解説します。
【 目次 】
遺族年金には2種類ある
遺族年金には、遺族基礎年金と遺族厚生年金という2つの種類があります。それぞれの概要は以下の通りです。
- 遺族基礎年金:亡くなった人が国民年金保険の被保険者であり、受給要件を満たしている場合に支給される
- 遺族厚生年金:亡くなった人が厚生年金保険の被保険者であり、受給要件を満たしている場合に支給される
また、遺族年金と遺族厚生年金は、公的年金制度と同様に2階建て構造になっています。つまり、自営業者などで、国民年金だけに加入している場合、受給できるのは遺族基礎年金のみです。基本的に国民年金には20歳以上60歳未満の全ての人が加入しているので、全ての人が遺族基礎年金を受給できる可能性があるといえるでしょう。
会社員や公務員など厚生年金の加入者であれば、遺族基礎年金に加えて遺族厚生年金も受給できるため、受給額はその分多くなります。
遺族基礎年金をもらえるのは子と子がいる配偶者
遺族基礎年金は、20歳以上60歳未満の人であれば全員受給できる可能性があります。
しかし、実際に受け取れるのは子と子のいる配偶者に限られ、誰でも受給できるわけではありません。
ここでは遺族基礎年金の受給要件や受給対象などの概要をご紹介します。
1.遺族基礎年金の受給要件
遺族基礎年金を受給するためには、亡くなった方が以下のいずれかの要件を満たしていなければなりません。
- 国民年金保険の被保険者であり、納付中だった
- 60歳以上65歳未満で国民年金保険の被保険者であった
- 老齢基礎年金の受給権者であった
- 老齢基礎年金の受給資格を満たしていた
2.遺族基礎年金の受給対象者
亡くなった方が受給要件を満たしていたとしても、遺族が受給対象の要件を満たしていないと支給されません。
受給されるために前提となるのは、亡くなった方により生計を維持されていたことです。「生計を維持されていた」とは、具体的には以下の2つの要件を満たす状態のことをいいます。
- 同居していて生計を同じくしていた
- 前年の収入が850万円未満、または所得が655万5000円未満である
上の要件を満たす遺族のうち、受給対象となるのは以下に該当する場合に限られます。
- 子のいる配偶者
- 子
また、ここでいう子とは、18歳になる年度、つまり高校3年生までの子、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級である子のことをいいます。
3.遺族基礎年金はいくらもらえるのか?
遺族基礎年金の受給額は以下の計算式で算出できます。
1. 配偶者が受け取る場合
777,800円+子の加算額
2. 配偶者がおらず、子が受け取る場合
777,800円+2人目以降の子の加算額
また、子の加算額は以下のとおりです。
- 1人目および2人目の子の加算額:各223,800円
- 3人目以降の加算額:各74,600円
具体的な金額はこちらの表の通りです。
遺族の構成 | 受給額 |
---|---|
配偶者・子1人 | 100万1600円 |
配偶者・子2人 | 122万5400円 |
配偶者・子3人 | 130万円 |
配偶者なし・子1人 | 77万7800円 |
配偶者なし・子2人 | 100万1600円 |
配偶者なし・子3人 | 107万6200円 |
遺族厚生年金は子がいなくてももらえる
亡くなった方が会社員や公務員など厚生年金加入者であった場合に受給できる遺族厚生年金は、遺族基礎年金に比べて受給対象者の範囲が広くなります。
遺族厚生年金の受給要件や受給対象者などの概要について解説します。
1.遺族厚生年金の受給要件
遺族厚生年金の受給要件は以下の通りです。亡くなった方がいずれかを満たしていれば支給されます。
- 厚生年金保険の被保険者であり、納付中だった
- 厚生年金保険の被保険者である期間中に発覚した(初診日がある)病気が原因で、その初診日から5年以内で死亡した
- 障害厚生(共済)年金1級、2級を受給していた
- 老齢厚生年金の受給権者だった
- 老齢厚生年金の受給資格を満たしていた
2.遺族厚生年金の受給対象者
遺族厚生年金の受給の前提条件も、遺族基礎年金と同様に、亡くなった方により生計を維持されていたことです。
受給対象となるのは、前提条件を満たしている遺族のうち、以下の方となります。
- 妻
- 子
- 夫(配偶者が死亡当時55歳以上の場合のみ)
- 父母(子が死亡当時55歳以上の場合のみ)
- 孫
- 祖父母(孫が死亡当時55歳以上の場合のみ)
遺族厚生年金を受給できるのは、上記のうち最も優先順位の高い人になります。遺族の優先順位は以下のとおりです。
優先順位 | 遺族 |
---|---|
1位 | 子のある妻・子のある55歳以上の夫・子 |
2位 | 子のない妻・子のない55歳以上の夫 |
3位 | 55歳以上の父母 |
4位 | 孫 |
5位 | 55歳以上の祖父母 |
なお、この場合の子とは、遺族基礎年金の場合と同じく、高校3年生の子、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級である子のことです。
また、夫や父母、祖父母の場合、亡くなった当時55歳以上であれば受給対象となりますが、実際に支給が開始されるのは60歳からです。
さらに、子のない30歳未満の妻である場合、遺族厚生年金を受給できる期間は5年間だけです。受給期間が限られるので注意しましょう。
3.遺族厚生年金はいくらもらえるのか?
遺族厚生年金の受給金額は以下の計算式で求めることができます。
死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分×3/4
上記計算式の中の報酬比例部分は、下記の式で算出します。
報酬比例部分=(平均標準報酬月額×7.125/1000×平成15年3月までの加入期間の月数)+(平均標準報酬額×5.481/1000×平成15年4月以降の加入期間の月数)
- 平均標準報酬月額:平成15年3月以前の加入期間について、各月の標準報酬月額の総額を平成15年3月以前の加入期間で割って得た額
- 平均標準報酬額:平成15年4月以降の加入期間について、各月の標準報酬月額と標準賞与額の総額を、平成15年4月以降の加入期間で割って得た額
参考URL:報酬比例部分(日本年金機構公式サイト)
このように遺族厚生年金の受給額の算出は非常に複雑で難しいです。正確な金額を知りたい場合は、年金事務所に問い合わせるとよいでしょう。
遺族年金の申請先と必要書類
万一の事態となり、遺族年金の受給申請をするには、具体的にどのように手続きすればよいのでしょうか。申請先や必要書類などについて説明します。
1.遺族年金の申請先
遺族年金の申請先は、遺族年金の種類によって異なります。
遺族年金の種類 | 申請先 |
---|---|
遺族基礎年金 | 住所地のある市区町村役場 |
遺族厚生年金 | 近くの年金事務所や年金相談センター |
2.必要書類
申請には請求書と添付書類が必要です。遺族基礎年金と遺族厚生年金で年金請求書の書式は異なりますが、添付書類は同じです。
①年金請求書
年金請求書はそれぞれ以下の場所で入手できます。
- 遺族基礎年金:住所地の市町村役場や近くの年金事務所、年金相談センター窓口
- 遺族厚生年金:近くの年金事務所、年金相談センター窓口
下記のページからダウンロードすることも可能です。
参考URL:遺族年金を請求するとき(日本年金機構公式サイト)
②添付書類
申請書に添付する書類は、遺族基礎年金、遺族厚生年金ともに同じです。下記の書類を準備しましょう。
- 基礎年金番号がわかるもの(基礎年金番号通知書、年金手帳など)
- 戸籍謄本
- 世帯全員の住民票の写し
- 亡くなった方の住民票の除票
- 申請者の収入が確認できる資料(所得証明書、源泉徴収票など)
- 子の収入が確認できる資料(小中学生の場合は不要、高校生の場合は在学証明書や学生証など)
- 死亡診断書のコピーまたは死亡届
- 受取先金融機関の通帳またはキャッシュカード
また、事故など第三者の行為が原因で亡くなられた場合は、下記の書類も必要です。
- 第三者行為事故状況届(所定の様式のもの)
- 事故が確認できる資料(交通事故証明書など)
- 確認書(所定の様式のもの)
- 被害者に扶養家族がいた場合、そのことがわかる資料(源泉徴収票、健康保険証の写しなど)
- 損害賠償金の算定書
生命保険に加入していた場合
一家の大黒柱に万一のことがあった場合、残された遺族は遺族年金を受給できることが多いですが、その金額が十分ではないケースもあるでしょう。そんなとき、遺族にとって頼りになるのは生命保険です。
故人が生命保険に加入していた場合、保険の内容を確認して、受取りの手続きを進めましょう。まずは、保険証券や死亡診断書などを用意して、生命保険会社に連絡し、保険の内容や手続きの方法について確認するとよいでしょう。
遺族年金についてよくある質問と回答
遺族年金についてよくいただく質問に回答したいと思います。
1.遺族基礎年金は父子家庭でも受け取れる?
遺族基礎年金は、父子家庭でも母子家庭と同様に受け取ることが可能です。
以前は、母子家庭しか受給できませんでしたが、2014年4月より、妻が先に亡くなり残されたのが夫である場合にも受給できるようになりました。
2.離婚している場合、遺族年金はもらえない?
離婚後に元配偶者の遺族年金を受給することはできません。受給対象者に元配偶者は含まれないからです。
しかし、遺族基礎年金については離婚した相手との間に子(高校3年生までの子または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級である子)がいて、相手から受け取る養育費などで生計を維持していた場合には、子に受給権があります。
一方、遺族厚生年金については少々複雑です。 相手が再婚しており、再婚相手との間にも子がいる場合には、元配偶者との間の子は受給できません。再婚していても再婚相手との間に子がなければ、元配偶者との子に遺族厚生年金が支給されることになります。
3.事実婚の場合、遺族年金はもらえない?
戸籍上の妻だけではなく、事実婚の妻も、故人により生計を維持されていた場合は、遺族年金を受給できる可能性があります。ただし、故人との生計維持関係を証明するための書類を用意して、認めてもらう必要があります。
必要となる書類については、日本年金機構公式サイト公式サイト内のこちらのページでご確認ください。
参考URL:生計同一関係・事実婚関係に関する申立をするとき(日本年金機構公式サイト)
4.遺族年金はいつまでもらえるの?
遺族年金は、遺族基礎年金と遺族厚生年金で受給期間が異なります。
遺族基礎年金を受給できる期間は、子が高校を卒業するまで(障害年金の障害等級1級または2級の子の場合は20歳になるまで)です。
一方、遺族厚生年金は、受給要件を満たしている限り一生涯受け取れます。
まとめ
今回は、遺族年金の種類、遺族基礎年金・遺族厚生年金の概要、遺族年金の請求方法、生命保険の受取り方法などについて解説しました。
遺族年金や生命保険は、一家の大黒柱に万一のことが起きた場合、残された家族の生活を守るために重要な役割を果たします。請求方法や具体的に受給できる金額などをしっかり把握しておくと安心です。