遺産相続の流れとスケジュール|期限別にすべきことを解説
初めて遺産相続をすることとなり、「まずは全体的な流れを知りたい」「いつまでにどのような手続をすべきなのか具体的に知りたい」などと思って、調べている方もいらっしゃるかと思います。
遺産相続の手続きの中には期限のある手続きも含まれているので、全体の流れを把握した上で、期限に間に合うよう着実に進めていくことが大切です。
今回は、遺産相続手続きの流れとスケジュール、必要な手続きと期限、専門家への依頼を検討すべきケースなどについて解説します。
【 目次 】
遺産相続手続きの流れとスケジュール
まずは、遺産相続手続きの全体的な流れとスケジュールについて説明します。
1.遺産相続手続きの流れ
相続手続きは、基本的に下の図のような流れで進めていきます。
遺言書が存在するか否かで手続きの流れが大きく変わるので、死亡届の提出などが完了したら、まずは遺言書の有無を確認する必要があります。
遺言がある場合は、家庭裁判所での検認手続きを経て、遺言書の内容に従って遺産を分割します。
遺言がない場合は、少々大変です。相続人調査や財産調査を行い、その上で相続方法を決定しなければなりません。分割すべき財産がある場合は、相続人全員で遺産分割協議の上、遺産を分割します。
最後に、相続税の申告を行えば、相続手続きは完了です。
2.遺産相続手続きのスケジュールと期限
被相続人が亡くなった後の手続きをスケジュールとしてまとめると、下の表のようになります。
期限 | 行うべき手続き |
---|---|
7日以内 | 死亡届の提出 |
10日以内 | (厚生年金・共済年金の受給者である場合)年金受給停止の手続き |
14日以内 | ・(国民年金の受給者である場合)年金受給停止の手続き ・(国民健康保険加入者の場合)国民健康保険資格喪失届 ・(75歳以上の場合)後期高齢者医療資格喪失届 ・(介護保険の受給者であった場合)介護保険の資格喪失届 ・(世帯主であった場合)世帯主変更届の提出 ・(法人の役員であった場合)退任の変更登記 |
3か月以内 | (単純承認以外の相続方法を選択する場合)限定承認・相続放棄の申述 |
4か月以内 | (故人が事業を行っていた場合)所得税の準確定申告 |
10か月以内 | (相続財産の総額が基礎控除額を上回る場合)相続税の申告・納付 |
1年以内 | (遺留分の侵害があった場合)遺留分侵害額請求 |
2年以内 | (国民健康保険や後期高齢者医療制度に加入していた場合)葬祭費・埋葬料の申請手続き |
5年10ヵ月以内 | (相続税の申告内容に間違いがあった場合)相続税の還付請求手続き |
遺産相続の流れ・いつまでに何をやるべきか?
「具体的にいつまでに何をすればよいのか知りたい」という方も多いと思いますので、いつまでにどのような手続きをすればよいか時系列で説明します。
1.7日以内に行う手続き
被相続人が亡くなった日から7日以内に死亡届を市区町村役場に提出します。
同時に火葬許可申請書を提出し、火葬許可証を取得するとスムーズです。火葬許可証は、葬儀会社で火葬の申し込みをする際に必要になります。
2.10日以内に行う手続き
故人が厚生年金や共済年金の受給者であった場合は、亡くなった日から10日以内に年金事務所に年金受給権者死亡届を提出します。
10日を過ぎても手続きはできますが、年金が過払いになると返還手続きをしなければならず、余計な手間がかかります。なるべく期限内に手続きをするのが望ましいでしょう。
また、故人が国民年金の受給者であった場合、以下で説明する通り、14日以内に年金受給権者死亡届を提出します。
3.14日以内に行う手続き
被相続人が亡くなってから14日以内に行うべき手続きには、以下のものがあります。
- (国民年金の受給者である場合)年金受給停止の手続き
- (国民健康保険加入者の場合)国民健康保険資格喪失届
- (75歳以上の場合)後期高齢者医療資格喪失届
- (介護保険の受給者であった場合)介護保険の資格喪失届
- (世帯主であった場合)世帯主変更届の提出
- (法人の役員であった場合)退任の変更登記
故人の年齢や立場によっては、多くの手続きを行う必要があります。
しかし、役所でできる手続きも多いため、段取り良く行えば一度で済ませられるでしょう。被相続人が亡くなってから日が浅いため、気持ちの生理がつかずに精神的に辛い時期かもしれませんが、なるべく負担が少なく済むように工夫して進めることも大切です。
4.3か月以内に行う手続き
相続が発生してから3か月以内に行わなければならない手続きは以下の二つです。
- 限定承認の申述申立
- 相続放棄の申述申立
①相続方法の決定
限定承認や相続放棄を選択する場合、相続発生後、3か月以内に手続きをする必要があります。これは、3か月以内に相続方法を決定しなければならないということを意味します。
相続方法には以下の3つの方法があります。
- 単純承認:プラスもマイナスも全ての遺産を相続する方法
- 限定承認:プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を清算する方法で、プラスの財産の方が多ければ、その分を相続できる
- 相続放棄:プラスもマイナスも全ての遺産の相続を放棄する方法
上記の3つの方法のうち、単純承認のみ、何の手続きも必要ありません。
相続発生後3か月以内に限定承認や相続放棄の手続きを行わなければ、自動的に単純承認をしたとみなされます。プラスの財産の方が明らかに多い場合は問題ありませんが、マイナスの財産の方が多い場合は、故人の借金を継ぐこととなり、大変な思いをする可能性もあるため注意が必要です。
そのような事態に陥らないためにも、相続方法を適切に選択し、期限内に手続きを行うことが大切です。
②相続方法の決定までにやること
前述した3つの相続方法のうち、どれを選択すべきか判断するためにも、財産調査を行う必要があります。
財産調査とは、故人が残した遺産を全て把握するための調査です。財産調査の結果、マイナスの財産がプラスの財産を上回っている場合は、相続放棄を選択すべきでしょう。また、プラスの財産の方が明らかに多い場合は単純承認を選択して問題ないでしょう。
しかし、遺産の中に不動産や株式など評価の難しい財産が含まれる場合もあり、財産調査が容易ではないこともあります。
そのような場合は、遺産相続に精通した専門家に相談することをおすすめします。遺産相続に精通した専門家であれば、正確に評価額を算出してくれます。正しく遺産総額を把握することで、どの相続方法を選択すべきか的確に判断できるでしょう。
また、財産調査と同時に相続人調査も行う必要があります。
相続人調査とは、故人の出生から死亡までの戸籍謄本類を全て取得し、相続人が誰かを特定することです。親族のことはよくわかっているので、わざわざ調べる必要はないと思うかもしれませんが、思わぬところから相続人が見つかることもあります。相続人調査は必ず行うようにしましょう。
遺産分割協議は相続人が一人でも欠けていれば無効となります。また、限定承認の申述申立は相続人全員で行う必要があります。
5.4か月以内に行う手続き
故人が自営業者であった場合は、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に所得税の準確定申告を行う必要があります。
準確定申告とは、亡くなった年の1月1日から亡くなった日までの故人の所得額を計算し、所得税を納めることをいいます。相続人が複数名いる場合は、連名で提出手続きをします。
6.10か月以内に行う手続き
相続財産の総額が基礎控除額を上回る場合は、故人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に相続税の申告と納付を行わなくてはなりません。
相続税の基礎控除額は以下の計算式で求められます。
相続税の基礎控除額=3000万円+600万円×相続人の数
①相続税の申告には遺産分割協議書が必要
相続税の申告をする際には、遺産分割の内容を記載した遺産分割協議書を添付する必要があります。
遺産分割協議書には、特に決められた書式はありませんが、必要な事項を記載していなければ効力が認められません。必要な記載事項をしっかりと把握した上で、サンプルを参考にしながら作成しましょう。
遺産分割協議書の作成方法やサンプルについては、こちらの記事で詳しく紹介していますので、参考にしてください。
参考記事:遺産分割協議書のサンプル
なお、法定相続分通りに分割する場合は、遺産分割協議書は作成しなくてもかまいません。
7.1年以内に行う手続き
遺言による遺贈や生前贈与によって不公平な相続が起こり、遺留分さえ取得できていない場合は、遺留分侵害額請求を行うことができます。ただし、遺留分侵害額請求権には、相続の開始と、遺贈や生前贈与があったことを知ってから1年という時効があります。必ず時効成立前に請求するようにしましょう。
8.2年以内に行う手続き
故人が国民健康保険や後期高齢者医療制度に加入していた場合、2年以内に手続きをすれば葬祭費が支給されます。支給される金額は自治体によって異なりますが、数万円程度でしょう。
また、故人が会社員や公務員で健康保険に加入していれば、埋葬料として5万円支給されます。
いずれの場合も、健康保険の資格喪失届と同時に申請しておくとよいでしょう。
9.5年10か月以内に行う手続き
相続税の申告内容に誤りがあり、払い過ぎていた場合は、故人が亡くなった日の翌日から5年10か月以内であれば、税務署に更正の請求を行うことにより還付を受けられます。更正の請求とは、本来支払うべき税金よりも多い金額を納めた場合などに、本来の額に修正するための手続きのことをいいます。
特に相続税の申告を自分で行った場合、専門家が見直すことにより、財産の評価額が違っていたり、減額要素が見つかったりして還付を受けられるケースは多くあります。
相続税の申告を終えていたとしても、後から専門家に申告内容を確認してもらうことにより減額要素が見つかる可能性もあるので、相続税に詳しい専門家に申告書を確認してもらうとよいでしょう。
専門家に依頼した方がよいケース
相続税の申告はご自身で問題なく行うことができるケースもありますが、遺産相続に精通した専門家に依頼することを検討した方が良い場合もあります。
具体的には、以下のようなケースです。
①遺産総額が大きいまたは評価の難しい財産が含まれる場合
②忙しくて時間的な余裕がない場合
③自分で行う自信がない場合
1.遺産総額が大きいまたは評価の難しい財産が含まれる場合
遺産総額が大きいほど、計算ミスによる相続税額の誤差も大きくなります。また、遺産に不動産や株式など評価の難しい財産が含まれる場合も、正確に算出するのは難しいです。
相続方法の判断を適切にするためにも、遺産相続に精通した専門家に相談した方がよいでしょう。
2.忙しくて時間的余裕がない場合
相続の手続きを全て完了するまでには、時間も手間もかかります。また、期限がある手続きも複数含まれているため、期限を気にしながら手続きを進める必要があり、仕事などで忙しい人にとってはかなりの負担となるでしょう。
遺産相続に精通した専門家に依頼すれば、手続きを任せられるため、負担がかなり軽くなり、「期限に間に合わないかもしれない」などという心配をする必要もなくなります。
3.自分で行う自信がない場合
相続手続きは初めて行うという方も多く、知らないことや複雑で理解できないことだらけだと感じる方もいらっしゃるでしょう。何から着手すればよいのかわからず、自分で手続きを進められるのか自信がなく不安だという方もいらっしゃるかと思います。
そのような方は遺産相続に精通した専門家に依頼することをおすすめします。専門家に任せることで、スムーズに手続きが進み、精神的な負担からも解放されるでしょう。
まとめ
今回は、遺産相続手続きの流れとスケジュール、必要な手続きと期限、専門家への依頼を検討すべきケースなどについて解説しました。
相続手続きの中には、期限のある手続きもあるため、計画的に進めていくことが大切です。
しかし、「調べてみたけれど、結局何から始めればいいのかよくわからない」「仕事で忙しくて、期限内に完了できるか自信がない」という方もいらっしゃるでしょう。
そのような方は、遺産相続に精通した専門家に相談し、具体的なアドバイスを得ることで、効率よく進められることもあるでしょう。期限がある手続きも含まれているので、なるべく時間的な余裕を持って、お早めに相談することをおすすめします。