相続税の控除とは|基礎控除やその他の控除制度について解説
「相続税には控除があると聞いたけれど、自分の場合は控除してもらえるのだろうか?」
「控除制度を利用すれば、相続税を安く抑えることはできるのだろうか?」
このように、近しい人が亡くなって相続が発生した際に、相続税をどれくらい支払わねばならないのか気になるという方は少なくないでしょう。
相続税の控除には、どんな場合も適用される基礎控除の他に、配偶者控除や未成年者控除、贈与税控除などさまざまな控除制度があります。
自分の場合は、どのような控除制度の適用を受けることができるのかを知り、支払わねばならない相続税の概算を把握してみましょう。思ったよりも少額で済んで、ほっとできることもあるかもしれません。
今回は、相続税の控除の種類、基礎控除、その他の控除制度、相続税を支払う必要の有無を判断する方法などについて解説します。
【 目次 】
相続税の控除の種類
相続税の控除にはさまざまなものがあります。主な控除の種類と概要は以下のとおりです。自分の場合はどんな控除が受けられそうかチェックしてみましょう。
控除の種類 | 控除を受けられる場合 |
---|---|
基礎控除 | 相続が発生したすべての場合 |
配偶者控除 | 相続人が被相続人の配偶者である場合 |
未成年者控除 | 相続人が20歳未満である場合 |
障害者控除 | 相続人が障害を抱えている場合 |
贈与税控除(暦年課税) | 被相続人から相続人に過去3年以内に贈与があり、そのときに贈与税を支払った場合 |
相次相続控除 | 過去10年以内に別の相続があった場合で、そのときに被相続人が財産を相続しており、さらに相続税も支払っていた場合 |
外国税控除 | 外国にある財産を相続し、財産のある国で相続税を課せられた場合 |
相続税の基礎控除とは
相続税の基礎控除額とは、相続税を支払う義務があるかどうかのボーダーラインとなる金額のことです。相続が発生すれば、どんな場合でも適用されるものですが、具体的な金額は法定相続人の数によって異なります。
シンプルな計算式で計算できるので、自分の場合は基礎控除額がいくらになるのか、実際に計算してみるとよいでしょう。
1.相続税の基礎控除額の求め方
相続税の基礎控除額は、次の式で求めます。
相続税の基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)
プラスの財産とマイナスの財産を合わせた相続財産の総額が、この基礎控除額以内に収まるなら相続税を支払う必要はありません。
相続財産の総額が基礎控除額を上回る場合のみ、相続税を申告、納付する必要があります。
具体的な計算例もみておきましょう。
例えば、被相続人が父で、相続人が母と子の合計2人であるとします。この場合、法定相続人は2人なので、基礎控除額は、3000万円+(600万円×2人)=4200万円となります。
被相続人の相続財産が4200万円を超えなければ、納税はもちろん申告をする必要もありません。
【法定相続人の人数と控除金額の早見表】
法定相続人の人数 | 基礎控除額 |
---|---|
1人 | 3600万円 |
2人 | 4200万円 |
3人 | 4800万円 |
4人 | 5400万円 |
5人 | 6000万円 |
6人 | 6600万円 |
2.法定相続人の求め方
相続税の基礎控除額を求めるためには、法定相続人の人数を知る必要があります。
では、法定相続人とはどのように数えればよいのでしょうか。
法定相続人とは、基本的に被相続人の配偶者の他、被相続人と血縁関係のある人がなり得ます。しかし、血縁関係があるからといって、必ずしも法定相続人になるとは限らず、下に示す相続順位に従って決まります。
【相続順位】
第1順位 | 被相続人の子、孫(直系卑属) |
---|---|
第2順位 | 被相続人の父母や祖父母(直系尊属) |
第3順位 | 被相続人の兄弟姉妹 |
被相続人に子がいた場合は、相続人は配偶者とその子のみになります。他に親戚がいようと法定相続人にはなれません。
被相続人に子がいない場合は、相続人は第2順位の父母が、被相続人に子も親もいない場合は、被相続人の兄弟姉妹が法定相続人となります。
また、以下のような場合は、法定相続人の数え方に少々注意が必要です。
①相続放棄をした人がいる場合
法定相続人の中に相続放棄をした人がいても、基礎控除額の算出においては影響がありません。
例えば、法定相続人が、母と長男、次男の3人で、長男が相続放棄をしたとしても、法定相続人は3人として基礎控除額を計算します。
②代襲相続がある場合
代襲相続とは本来相続すべき人が既に亡くなっていた場合に起こる相続方法です。その相続人の子が代わって相続することになります。
例えば、被相続人に子がいたものの、子が既に亡くなっており、その子に被相続人の孫にあたる子がいた場合は孫が相続人となります。
また、被相続人に子がおらず、相続順位2位の両親や祖父母も既に他界していた場合、その相続権は兄弟姉妹にうつります。しかし、その兄弟姉妹も他界していた場合は、その兄弟姉妹の子、つまり被相続人の甥や姪に相続権がうつることになるのです。
③養子がいる場合
被相続人の養子も、実子と同様に法定相続人となります。
ただし、法定相続人に含められる養子の数には制限があることに注意が必要です。相続人に実子もいる場合の養子の数は1人、実子がいない場合の養子の数2人までとなっています。
④欠格・廃除がある場合
遺言を偽造したり、被相続人を殺したりなどして相続権を失ったり(欠格)、虐待するなど、悪質な行いをしたことで被相続人から相続権を剥奪されたり(廃除)した者がいる場合、その人物は法定相続人に含めません。
しかし、相続欠格者や廃除者が既に亡くなっており、その人物の子に代襲相続された場合は、その子を法定相続人に含めて計算することになります。
⑤遺言によって法定相続人以外の人が相続する場合
被相続人が遺言を残し、そこに法定相続人以外の他人に財産を相続させる旨が書いてあった場合、遺言に記載のあった他人は、法定相続人には含めません。法定相続人となり得るのは、あくまで被相続人と血縁関係のあった者に限られるからです。
相続税におけるその他の控除制度
相続税には基礎控除以外にも、さまざまな控除制度があります。該当するものがあれば、控除の申請をしましょう。
1.配偶者控除
被相続人の配偶者は、相続した財産が法定相続分以内であれば、税金は課せられません。
また、法定相続分を超えている場合でも1億6000万円以下であれば、相続税は課せられません。
例えば、相続財産の総額が6億円で、配偶者が実際に相続した金額が2億5000万円だったとしましょう。この場合、配偶者の法定相続分は相続財産の2分の1なので、3億円の計算になります。配偶者が実際に相続した金額は3億円を下回る金額なので、相続税はかかりません。
また、別の例として、相続財産の総額が2億円で、配偶者が1億2000万円相続したとしましょう。この場合、法定相続分の1億円を超過していますが、実際の相続額は1億6000万円よりも少ない金額なので、相続税はかからないことになります。
配偶者控除を受ける場合は、配偶者が相続した財産や被相続人との関係を証明する戸籍謄本などの書類が必要となります。他に、遺言書がある場合は遺言書、ない場合は遺産分割協議書の写し等、相続内容がわかる書類が必要です。これらを揃えて税務署に申請します。
2.未成年者控除
相続人の中に未成年者がいる場合は、20歳までの年数の1年ごとに6万円、あるいは10万円が控除されます。
相続の開始が平成26年12月31日以前の場合は、1年につき6万円の控除、相続の開始が平成27年1月1日以降の場合は、1年につき10万円が控除されます。
3.障害者控除
相続人に85歳未満で障害を抱えている人がいる場合は、障害者控除が適用されます。
障害のある相続人が85歳になるまでの年数1年あたり10万円(特別障害者の場合は20万円)が控除されます。
4.贈与税控除
贈与税控除とは、相続が発生した時点から過去3年以内に被相続人から財産の贈与があり、そのときに贈与税を納めていた場合に適用される控除です。
通常、贈与財産であれば相続税の対象になり、その分相続税がかかりますが、既に贈与税を支払っている場合は二重の納税になるため、それを避けるために控除されます。
5.相次相続控除
相次相続控除とは、相続が発生してから10年以内に次の相続が発生した場合に、相続税の負担を軽減するための控除です。
最初の相続(一次相続)から次の相続(二次相続)までの期間に応じて、相続税が控除されます。
6.外国税額控除
相続によって海外にある財産を取得した場合に、国外でその財産について、日本の相続税にあたる税金を支払う場合があります。
このような場合は二重納税となってしまうため、海外で納税した税金が控除されます。
7.控除が適用されるためには申告が必要
基礎控除以外の控除の適用を受けるためには、申告が必要です。自分で計算した結果、相続財産の総額が基礎控除額内に収まり、納税不要と判断できる場合であっても、申告しなければ控除が適用されません。
申告を怠ると延滞税や加算税を徴収されてしまう可能性があるため、これらの控除を受けるためには必ず相続税の申告を行うようにしましょう。
相続税を支払う必要の有無を判断する方法
実際に相続税を支払う必要があるかを判断するためには、相続財産の総額を求める必要があります。
相続財産の総額はプラスの財産の総額からマイナスの財産の総額を差し引けば求められますが、特にプラスの財産については評価額の求め方が複雑なものもあり、自分で算出するのは難しいこともあるでしょう。
よくわからないまま自分で計算して、納税不要だと思っていたら、基礎控除額の範囲を超えており、実は納税する必要があることが発覚すると大変です。
難しいと感じる場合は、無理せず専門家に相談することをおすすめします。
1.相続財産金額を求めるには
相続財産の総額は、プラスの財産からマイナスの財産を引いて求めます。そのためには、まず相続財産にはどのようなものがあり、それぞれの財産がどれくらいあるのか正確に把握しなくてはなりません。
主なプラスの財産とマイナスの財産には、次のようなものが挙げられます。
【プラスの財産の例】
- 現金
- 預貯金
- 土地や建物などの不動産
- 借地権や借家権など不動産上の権利
- 株式
- 車や家財道具などの動産類
- ゴルフ会員権・リゾート会員権など
【マイナスの財産の例】
- 借入金や買掛金、ローンなどの債務
- 未払いの公租公課
- 葬儀などにかかった費用
また、死亡保険金や死亡退職金などのみなし相続財産や、過去3年以内に被相続人から贈与を受けた財産も相続財産に含める必要があります。
相続財産に色々なものが含まれて複雑な場合は、エクセルなどで一覧表を作って整理するとよいでしょう。
2.評価対象となる財産と評価額の求め方
相続財産の総額を求める際に、特に複雑なのがプラスの財産です。主な財産の種類とその評価方法を表にまとめました。
相続財産の種類 | 評価方法 |
---|---|
土地 | ①路線価図がある場合 評価額=路線価×宅地面積(㎡) ②路線価図がない場合 評価額=固定資産評価額×倍率 |
家屋 | 評価額=固定資産税評価額 |
預貯金 | 評価額=元金+既経過利息 |
上場株式 | 下記①~④のうち最も低い価額 ①課税時期の終値 ②課税時期の属する月の毎日の終値の月平均値 ③課税時期の全月の毎日の終値の月平均値 ④課税時期の前々月の毎日の終値の月平均値 |
動産類 | 評価額=再購入した場合にかかる金額-既経過年数に応じた減価償却金額 |
ゴルフ会員権 | ①取引相場がある場合 評価額=相続開始日時点の取引相場×0.7 ②取引相場がない場合 評価額=株式の評価によって計算した価額 |
3.みなし相続財産とは
みなし相続財産とは、本来であれば相続財産には含まれないものの、被相続人が負担してきたものであり、被相続人の死亡により相続人が受け取るものであることから、実質的に相続財産として扱われるもののことをいいます。死亡保険金や死亡保険金が代表的なみなし相続財産です。
みなし相続財産は、相続税の課税対象となりますが、非課税枠が設けられており、「500万円×法定相続人の数」で求められる金額を超えない限り課税されません。
例えば、死亡保険金が1000万円で、相続人が妻と2人の子である場合、非課税枠は500万×3人で1500万円となるため、課税対象にはなりません。
4.過去3年以内に贈与のあった財産も相続財産
相続開始前3年以内に被相続人から贈与された財産も相続財産として計上しなければなりません。ただし、贈与を受けた時点で贈与税を支払っていた場合は、贈与税控除が適用され、納付が必要な相続税は減額されます。
5.葬儀費用などは相続財産から支払う
被相続人の葬儀にかかった費用などは、相続財産から支払うことになります。相続人が負担するものではなく、被相続人のマイナスの財産に含めるべきものなので、相続財産として計算するのを忘れないようにしましょう。
一方、香典の返礼費用や初七日など、葬式以外の法要のための費用などは含まれません。
まとめ
今回は、相続税の控除の種類、基礎控除、その他の控除制度、相続税を支払う必要の有無を判断する方法などについて解説しました。
相続税には基礎控除の他にもさまざまな控除制度があります。基礎控除だけでも大きな金額が控除されますが、他の控除制度を利用することで、さらに減額可能となることがあります。適用されるものがある場合は、ぜひ利用しましょう。
ただし、基礎控除以外の控除制度の利用には申告が必要です。たとえ、自分で控除制度を利用した場合の控除額を計算してみて、相続税額が0円になることが判断できたとしても、控除を受けるためには税務申告が必要なので注意しましょう。
また、相続財産の総額が基礎控除額内に収まるかどうか、すなわち相続税の申告と支払いが必要かどうかは、相続財産の総額を求めないことには判断できません。
評価方法がシンプルな相続財産ばかりである場合は、自分でも算出できるかもしれませんが、評価方法が複雑で自分で評価額を算出するのが難しいものもあります。自分で算出するのが難しいと感じた場合は、無理をせず専門家に相談しましょう。