相続税の一括納税が困難な場合の解決法|延納、物納について解説
相続財産の総額が基礎控除額を超えると、相続税を納税しなければなりません。相続税はどんなに高額でも基本的に一括納付をする必要があります。
しかし、相続税の額が高額で、支払えそうになくてお困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。特に、相続財産の多くが不動産で売却するわけにもいかない場合などは、支払いが困難となることがあるでしょう。そのような場合は、延納や物納という納税方法を選択することで解決できるかもしれません。
今回は、相続税の一括納付が困難な場合の対処法、延納や物納を利用する方法、延納も物納も難しい場合の解決法、期限までに払えない場合にかかる税金などについて解説します。
【 目次 】
相続税の一括納付が困難な場合の対処法
被相続人の財産を相続した相続人は、相続財産の総額が基礎控除額以下の場合を除き、相続した財産に対して、税務署に税金を納めなければなりません。
相続税は現金で一括納付するのが原則ですが、手元に現金がなく、一括納税が困難な場合は、どのように対処すればよいのでしょうか。
1.まずは延納を検討
相続税を一括納付することが難しい場合、まずは延納できないか確認してみましょう。
延納とは、相続税が10万円を超え、納税義務者が金銭をもって一括納付することが難しい場合、ある一定の要件の元、年賦納付が認められ、納付期間を延ばすことができる納税方法のことです。延滞税はかかりませんが、利子税はかかるので注意しましょう。
延納を利用するためには、相続税の申告期限(相続が発生した事を知った日から10か月以内)までに税務署に延納申請書と担保提供書類を提出する必要があります。
2.延納しても納付できないなら物納
物納とは、延納をしても納税義務者が金銭で納付することが難しい場合に、一定の要件の元、不動産や国債、株式などの金銭ではない相続財産で納税することです。
相続財産を手放すことになるため、できる限り避けたい方法かもしれませんが、他に手段がない場合は仕方ありません。あくまで納税のための最終手段として考えるとよいでしょう。
物納を利用する場合も、相続税の申告期限(相続が発生した事を知った日から10か月以内)までに税務署に延納申請書と担保提供書類を提出する必要があります。
延納を利用する要件と注意点
相続税の一括納付が難しい場合、最初に検討すべき納税手段は延納ですが、延納はどんな場合でも利用できるわけではありません。延納が認められる要件や注意点について説明します。
1.一定の要件を満たす必要がある
相続税の延納が認められるためには、一定の要件を満たさなければなりません。
具体的な要件は以下の通りです。
(1) 相続税額が10万円を超えること
(2) 金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額の範囲内であること
(3) 延納税額及び利子税の額に相当する担保を提供すること
(ただし、延納税額が100万円以下で、かつ、延納期間が3年以下である場合には担保を提供する必要はありません。)
(4) 延納申請に係る相続税の納期限又は納付すべき日(延納申請期限)までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長に提出すること
引用元:国税庁ホームページNo.4211 相続税の延納「2 延納の要件」
これらの要件を満たして延納が認められた場合、納税期間が延長されます。延長期間は相続財産のうちに占める不動産の価額の割合によって異なり、5年から20年となっています。
2.提供できる担保の種類
前述した通り、延納が認められるためには、延納する税額や利子税の額に見合うだけの担保を提供しなければなりません。
担保として認められているのは、以下に挙げるものです。
(1)国債及び地方債
(2)社債その他の有価証券で税務署長が確実と認めるもの
(3)土地
(4)建物、立木、登記される船舶などで、保険に附したもの
(5)鉄道財団、工場財団など
(6)税務署長が確実と認める保証人の保証
引用元:国税庁ホームページ「No.4211 相続税の延納「3 担保の種類」」
担保として提供するものは、相続によって取得した財産に限られるわけではありません。相続人や第三者が所有している財産であっても担保として認められます。
3.利子税がかかることに注意
延納を利用すると延滞税はかかりませんが、代わりに延納利子税がかかります。
利子税の割合は、相続財産のうちに占める不動産の価額の割合によって決まります。不動産の価額の割合と延納利子税の割合などは下図のとおりです。
引用元:国税庁ホームページ「No.4211 相続税の延納」
この表には「延納利子税割合」と「特例割合」の二つの項目がありますが、実際に延納利子税額を決定する利子率を表すのは「特例割合」になります。
この特例割合とは、延納特例基準割合が7.3%に満たない場合は次の計算式で計算されています。
延納利子税割合(年割合) × 延納特例基準割合(※) ÷ 7.3%
(注)0.1%未満の端数は切り捨て、その割合が0.1%未満の割合である場合は年0.1
①延納特例基準割合とは
延納特例基準割合とは、分納を始めた年の、前々年の9月から前年の8月までの各月における銀行の新規の短期貸出約定平均金利の合計を、12で除して求めた割合として、各年の前年の11月30日までに財務大臣が告示する割合に、年0.5%の割合を加算した割合のことをいいます。
つまり、年によって異なるものであるため、この割合を用いて計算する特例割合の値も年によって異なります。
さらに、延納利子税率は完納するまで分納を始めた年の特例割合を適用するため、分納開始年によっては、上図で示される割合よりも高い利率で払い続けることになることもあるでしょう。
4.実際に利用するには
延納の申請は、相続税の納税と同様に、被相続人の死亡を知った日の翌日から10カ月以内に行わなければなりません。被相続人の最後の住所地を管轄する税務署に以下の書類を提出して手続きをします。
- 相続税延納申請書
- 金銭納付を困難とする理由書
- 担保目録及び担保提供書
- 不動産等の財産明細書
- 各種確約書
- 担保提供関係書類
これらの書類は国税庁公式サイト内の下記のページからダウンロードできます。
なお、担保提供関係書類については、提出期限までに準備できなければ提出期限の延長が可能です。担保提供関係書類提出期限延長届出書を提出することで、1回につき3ヶ月まで延長してもらえます。
書式のダウンロード:「3 様式集」(国税庁)
物納を利用するには
延納を利用するのが難しい場合は、物納を検討することになります。
物納とは、相続税のうち現金で支払えない部分について、相続財産中の不動産などの財産で納税する方法です。
税金は原則として金銭で納付するものですが、相続税については延納が難しい場合に限って物納が認められています。
1.利用するための要件とは
物納を利用するためには以下の四つの要件があり、利用するためにはこれらすべての要件を満たす必要があります。
“(1) 延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額を限度としていること。
(2) 物納申請財産は、納付すべき相続税額の課税価格計算の基礎となった相続財産のうち、次に掲げる財産及び順位(①から⑤の順)で、その所在が日本国内にあること。
第1順位 ① 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等(特別の法律により法人の発行する債券及び出資証券を含みますが、短期社債等は除かれます。)
② 不動産及び上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
第2順位 ③ 非上場株式等(特別の法律により法人の発行する債券及び出資証券を含みますが、短期社債等は除かれます。)
④ 非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
第3順位 ⑤ 動産
(3) 物納に充てることができる財産は、管理処分不適格財産に該当しないものであること及び物納劣後財産に該当する場合には、他に物納に充てるべき適当な財産がないこと。
(4) 物納しようとする相続税の納期限又は納付すべき日(物納申請期限)までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して税務署長に提出すること。
引用元:国税庁ホームページ「No.4214 相続税の物納」「2 物納の要件」
2.物納できる財産とは
物納の要件の第2項にあるとおり、物納に充てることのできる相続財産とその順位は以下の表のとおりに定められています。
順位 | 物納に充てることができる財産 | |
---|---|---|
第1順位 | ① | 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等 |
② | 不動産及び上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの | |
第2順位 | ① | 非上場株式等 |
② | 非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの | |
第3順位 | 動産 |
つまり、相続財産中に第1順位の①に該当する不動産などがある場合は、それを充てますが、ない場合は第1順位の②不動産及び上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの、それもなければ、第2順位①の非上場株式で物納することになるのです。
物納劣後財産とは、他の財産よりも物納に不向きな財産のことを指します。具体的には相続税法施行令第19条で定められたものであり、地上権、永小作権若しくは耕作を目的とする賃借権、地役権又は入会権が設定されている土地や法令に違反して建築された建物や敷地などが該当します。
一方、物納できない財産もあります。相続税法施行令第18条で定められた「管理処分不適格財産」が物納できない財産にあたり、具体的には担保権の設定された不動産や権利の帰属について争いのある財産などです。
これらの財産は国による処分や管理が困難であるため、物納に充てることは認められていません。
3.実際に利用するには
物納を実際に利用する場合も、延納を申請する場合と同様に、被相続人の死亡を知った日の翌日から10カ月以内に申請を行う必要があります。
実際に申請手続きをする前に、まずは物納申請の対象となる財産を選定しましょう。
相続財産中のどの財産を物納に充てるか選定できたら、書類を揃えて申請します。
必要書類は、物納財産ごとに異なりますが、共通して必要なのは以下の書類です。
- 物納申請書
- 金銭納付を困難とする理由書
- 物納財産目録
書式は国税庁公式サイトからダウンロードできます。
期限内の提出が難しい場合は、物納手続関係書類提出期限延長届出書を提出すれば、期限を延長することも可能です。一度の提出につき、最長で3ヶ月延長することができます。
書式のダウンロード:「3 様式集」(国税庁)
延納も物納も難しい場合の解決法
延納も物納も難しい場合は、何とか現金を用意するしかありません。
その場合の解決法としては、相続財産の中に不動産が含まれる場合はその不動産を売却して、売却代金を納税に充てたり、金融機関が提供している相続税を支払うためのローンを利用したりする方法が考えられます。
1.不動産があるなら売却資金で納税する方法も
相続財産に不動産が含まれるなら、不動産の売却資金を納税に充てる方法を検討してみるとよいでしょう。不動産を売却すれば、まとまった金額が手に入るので、何とか納税できるケースも少なくないはずです。
ただし、不動産の売却には時間がかかるため、相続人同士での話をできるだけ早くまとめて、不動産会社に依頼するようにしましょう。
また、不動産売却時には通常、譲渡所得税がかかることにも注意が必要です。
譲渡所得税は所有期間によって税率が異なったり、対象不動産に被相続人が居住していた場合は控除特例が適用されることがあったりなど、少々複雑な点があります。
譲渡所得税の金額を抑えるためにも、不動産を売却して納税する場合は、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
2.金融機関のローンを利用する方法
相続税の納税資金調達のためのローンサービスや、不動産担保ローンなど他のローンサービスを相続税の納税資金に利用することを提案している金融機関もあります。
ローンであるため金利は発生しますが、低金利で組めるところを探すなど、上手く活用するとよいでしょう。
期限までに払えない場合にかかる税金
相続税の支払いに足りるだけの現金が用意できなかった場合、そのまま放っておきたくなるかもしれません。
しかし、納付期限を過ぎてしまうと延滞税や加算税がかかってしまい、支払うべき税金がさらに増えることになってしまいます。具体的にどのような税金がかかる可能性があるのか説明します。
1.延滞税がかかる
納付期限までに相続税を支払わず、遅れて納付する場合には延滞税がかかります。延滞税の税率は遅れた期間に応じて異なり、平成30年1月1日~令和2年12月31日の税率は以下のとおりです。
- 納期限の翌日から2カ月を経過する日まで:年2.6%
- 納期限の翌日から2カ月を経過した日以後:年8.9%
2.無申告や過少申告の場合は加算税がかかる
相続財産の総額が基礎控除を超過しているにもかかわらず、相続税の申告を行わなかった場合や、相続財産の額を偽って、実際よりも少なく申告した場合などはペナルティとして加算税がかかります。
①無申告課税
本来なら相続税の申告をする必要があったにもかかわらず、申告しなかった場合は、相続税に加えて無申告課税も支払うことになります。税率は以下のとおりです。
- 税務調査の事前通知を受ける前に自主的に申告した場合:5%
- 税務調査の事前通知を受けてから税務調査を受けるまでに申告した場合:10%(相続税額が50万円を超える場合は、50万円超過部分について15%)
- 税務調査を受けてから申告した場合:15%(相続税額が50万円を超える場合は、50万円超過部分について20%)
②過少申告課税
相続財産の総額を本来よりも少なく申告した場合は、過少申告課税としてペナルティが課されます。過少申告課税の税率は以下のとおりです。
- 税務調査の事前通知を受ける前に自主的に修正申告した場合:0%
- 税務調査の事前通知を受けてから税務調査を受けるまでに修正申告した場合:5%
(追加納税額が期限内に申告した金額か50万円のうち多い方を超える場合は、50万円超過部分について10%) - 税務調査を受けてから修正申告した場合または更正を受けた場合:10%
(追加納税額が期限内に申告した金額か50万円のうち多い方を超える場合は、50万円超過部分について15%)
③重加算税
納税を逃れるために相続財産を隠す、証拠となる書類を偽造するなど、いわゆる脱税をしようとした場合は悪質と判断され、より重いペナルティが課されます。重加算税の税率は以下のとおりです。
- 申告書を提出していた場合:35%(過少申告課税に代えて課税)
- 申告書を提出していなかった場合:40%(無申告課税に代えて課税)
まとめ
今回は、相続税の一括納付が困難な場合の対処法、延納や物納を利用する方法、延納も物納も難しい場合の解決法、期限までに払えない場合にかかる税金などについて解説しました。
相続財産に不動産が多く含まれる場合などは、相続税の金額が多額となるにもかかわらず、現金が手元にないためにどうすればよいものか途方に暮れそうになるものです。
しかし、そのような場合でも解決方法はあります。まずは延納できないか検討し、難しい場合は物納することを検討してみましょう。それでも難しい場合は、不動産を売却したり、金融機関のローンを利用したりすることで解決できることもあるでしょう。
また、延納や物納の要件を満たしているのかわからない場合や利用の仕方がよくわからない場合は、早めに専門家に相談することをおすすめします。不安なまま放っておいて、申告期限や納付期限を過ぎてしまって延滞税や加算税まで支払うことになっては大変です。
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