相続税と財産評価|財産の種類別に計算方法を解説
親族が亡くなってしまい相続財産がある場合、相続税のことも気になるものです。
「相続税は一体どれくらい支払わなければならないのだろうか」
「財産評価額は具体的にどのように計算すればよいのだろうか」
などと、わからないことだらけで困っている方もいらっしゃるかと思います。
相続税は、相続財産の額が一定金額以上になる場合に限り発生するもので、実際に支払う必要のあるケースはあまり多くありません。
また、相続財産の財産評価の方法は、財産によって異なり、少々複雑なこともあります。
今回は、相続税の概要、宅地や家屋の財産評価方法、株式の財産評価方法、みなし相続財産やその他の財産の評価方法などについて解説します。
相続税とは
相続税とは、被相続人から財産を相続した際にかかる税金のことです。財産を相続すれば必ず払わなければならないわけではなく、相続財産の金額が基礎控除額を超えた場合にのみ支払う必要があります。
実は財産を相続しても、相続税を支払わなければならないケースは、そう多くはありません。2020年の相続税の課税件数は全体の8.8%と1割にも届かない割合でした。
まずは自分の場合に相続税はかかるのか、また相続税の対象となる財産にはどのようなものがあるのか、理解しておきましょう。
1.相続税と基礎控除額
相続税は、相続人の住所が日本国内にある限り支払う必要があり、相続した全ての財産についてかかります。
しかし、相続税には基礎控除額というものが設定されており、基礎控除額を超えた場合にのみ支払う義務が生じます。相続財産の金額が下記の計算式を使って求めた基礎控除額よりも低い場合は支払う必要がありません。
【相続税の基礎控除額の計算式】
相続税の基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の人数
2.相続税がかかる財産とは
相続税は被相続人から相続した財産、すなわち預金や不動産、株式、貸付信託や投資信託、ゴルフ会員権や宝石・貴金属などに対してかかります。
他にも、生命保険や退職手当金など、みなし相続財産と呼ばれる財産や、相続開始前の3年以内に被相続人から贈与を受けていた財産などについてもかかります。ただし、みなし相続財産については500万円×法定相続人の人数で求められる金額を超えない場合は非課税対象となり、相続税はかかりません。
また、墓石や仏壇、遺族に対して贈られる弔慰金などは相続税の対象にはなりません。
宅地の財産評価方法
相続財産に土地が含まれている場合、評価額は基本的に路線価方式か倍率方式のどちらかにより算定します。国税庁の公式サイトに掲載されている路線価や倍率を使って計算しますが、不慣れな人にはわかりづらく、匙を投げたくなることもあるでしょう。よくわからない場合は、専門家に相談してみることをおすすめします。
1.路線価がある場合
「路線価方式」は、市街地にある宅地の評価に用いる方法です。宅地が面している道路に付された価額(路線価)をベースに次のような計算式で評価額を計算します。
評価額=路線価×宅地面積(㎡)
路線価は国税庁のホームページにある「路線価図」で調べられます。
参考サイト:路線価図・評価倍率表(国税庁公式サイト)
2.路線価がない場合
道路に接していない土地や公道に面した土地の場合、路線価がありません。そのような場合は倍率方式で土地の評価額を算出します。倍率方式による宅地は、その宅地の固定資産税評価額に一定の倍率をかけて評価額を算出します。
評価額=固定資産評価額×倍率
倍率も、上記の国税庁のページに記載されていますので、対象の土地を調べてみるとよいでしょう。
3.土地を貸していた場合
被相続人が所有する土地を第三者に貸し、その上に住宅や事務所などが建てられている「貸宅地」の場合、評価額は以下のような計算式で求めます。
評価額=自用地評価額×(1-借地権割合)
自用地とは誰かに貸したりせずに、自分の家を建てる、または更地のままにしている土地のことで、借地権など他の誰かの権利が付いていない土地のことです。
土地に借地権など第三者の権利が付くと、土地の価値は所有者だけでなく権利者にも帰属するため、その土地の評価額は権利者にも分割することになります。そのため、第三者に土地を貸していた場合は、本来の土地の評価額から借地権割合に応じた分を差し引いた額が評価額となるのです。
なお、借地権割合も上記の国税庁のページで調べられます。
4.土地を借りていた場合
第三者が所有する土地を借りていた場合、借地権が相続財産に含まれることになります。この場合の評価額は以下の計算式で求めます。
評価額=自用地評価額×借地権割合
5.賃貸物件が建っている場合
被相続人が所有していた土地の上に、貸家や賃貸マンションなど、賃貸物件が建っている場合、かつ賃貸物件の所有者も被相続人である場合は以下の計算式で評価額を求めます。
評価額=自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合(=30%)×賃貸割合)
借家権割合とは全国一律で30%と決まっています。また、賃貸割合とは貸し出されている部屋の床面積の割合のことを指します。
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6.小規模宅地等の特例で減額の可能性も
不動産の相続税評価額は大きな金額になることも多いものです。多額の相続税を支払わなければならないのかと不安になることもあるでしょう。
しかし、小規模宅地等の特例の要件にあてはまる場合は大幅に減額されます。330㎡までの小規模宅地については土地の相続税評価額の80%が減額になるのです。
小規模宅地等の特例が適用されるためには、対象の土地が、被相続人が住んでいた宅地であり、被相続人と生計を一にする被相続人の親族が住んでいた宅地でなければなりません。
さらに、取得者ごとに要件が異なります。それぞれの場合の要件は以下のとおりです。
①取得者が被相続人の配偶者の場合
対象の土地の取得者が被相続人の配偶者である場合は、他に要件はありません。
②取得者が被相続人と同居の親族の場合
被相続人と同居していた配偶者以外の親族が取得する場合、相続開始の時から相続税の申告期限まで、引き続きその家屋に住み、その宅地を所有していることが要件となります。
③被相続人と同居していない場合
被相続人と同居していなかった人が取得する場合は、以下の3点が要件となります。
- 被相続人に配偶者がおらず、対象家屋に他に同居していた法定相続人がいないこと
- 相続開始前3年以内に日本国内にある自己または自己の配偶者が所有する家屋に住んだことがないこと
- 相続税の申告期限までその宅地を所有していること
なお、二世帯住宅や老人ホームに入居していた場合も一定の要件を満たしていれば、小規模宅地等の特例の対象となります。
家屋の財産評価方法
家屋の場合は、被相続人が所有する家に自らが住んでいた場合の他、自らは住まずに第三者に家屋を貸していた場合、賃貸アパートなどを所有していた場合でそれぞれ評価方法が異なります。
1.基本的な家屋の財産評価方法
家屋の評価は、固定資産税評価額に一定倍率を乗じて(かけて)求めます。現在、全地域1.0倍とされているため、固定資産税評価額がそのまま家屋の評価額になります。被相続人が所有する家屋に住んでいた場合、家屋の財産評価額は固定資産税評価額となるのです。
2.貸し家の場合
被相続人が所有していた物件を第三者に貸していた場合、評価額は以下の計算式で求めます。
評価額=固定資産税評価額×(1-借家権割合(=30%))
固定資産税評価額から借家権割合を控除した価額が評価額となります。なお、借家権割合は全国一律で30%と決まっています。
3.賃貸アパートなどの場合
被相続人が賃貸アパートなどを所有していた場合は、以下の計算式で評価額を求めます。
評価額=固定資産税評価額×(1-借家権割合(=30%)×賃貸割合)
賃貸割合とは貸している部屋の床面積の割合のことを指します。
株式の財産評価方法
株式の評価は、上場株式か非上場株式かによって評価の方法が異なります。
1.上場株式の評価
証券取引所に上場されている株式(上場株式)は、下記のうち最も低い価額が評価額となります。
- 課税時期の終値
- 課税時期の属する月の毎日の終値の月平均値
- 課税時期の前月の毎日の終値の月平均値
- 課税時期の前々月の毎日の終値の月平均値
2.非上場株式の評価額
証券取引所に上場していない株式(非上場株式)は取引相場がなく、その評価方法もかなり複雑です。
非上場株式は、株主区分や会社の規模・状況など、さまざまな要因に応じて評価額が決まります。
評価にあたっては、まず相続により株式を取得した株主が経営を支配できる能力をもっているかによって評価方式を決めます。評価方式には原則的評価方式と配当還元方式があります。
原則的評価方式によって評価する場合は、次に評価会社の規模(大会社・中会社・小会社のいずれに該当するか)を判定して進めていきます。
非上場株式の評価は専門知識がないとかなり難しいので、相続にあたっては専門家に相談することをおすすめします。
みなし相続財産の評価方法
みなし相続財産とは、被相続人の相続財産ではありませんが、実質的に相続によって取得したものと判断される財産のことです。代表的なものとして、生命保険金や退職手当金などが挙げられます。相続税の課税対象ではありますが、非課税枠も設けられています。
1.生命保険金
生命保険金は被相続人の死亡によって発生するものであり、受取人として被相続人以外の人が指定されているため、法律的には相続財産にはあたりません。
しかし、その保険料は被相続人が負担していたものであり、被相続人の死亡によって相続人等が取得し得るものであることから、相続財産と変わらないとも考えられます。
そのため、一定金額以上の生命保険金を取得することになった場合は、相続税を支払わなくてはなりません。相続税の金額は、以下の計算式で求めます。
評価額=生命保険金の受取金額 - 非課税枠(500万円×法定相続人の数)
生命保険の受取金額が非課税枠内に収まった場合は、生命保険金についての相続税は発生しないことになります。
2.退職手当金
退職手当金は本来、被相続人本人に対して支払われるものですが、被相続人が亡くなってしまった場合は、会社から相続人等に対して直接支払われることになります。その場合、被相続人が所有していた財産ではないため、相続財産にはあたらないことになります。
しかし、退職手当金は被相続人本人の労働についての対価として積み上げられてきた金銭です。また、被相続人の死亡によって相続人等に支払われるものでもあります。そのため、相続財産と変わらないとも解釈され、退職手当金についても一定金額以上が支払われた場合は、相続税を支払う必要があるのです。退職手当金についての相続税は以下の計算式で求めます。
評価額=退職手当金の受取金額 - 非課税枠(500万円 × 法定相続人の数)
3.その他のみなし相続財産
生命保険金や退職手当金以外にもみなし相続財産として、相続税の課税対象となる財産があります。その他のみなし相続財産としては以下のようなものが挙げられます。
- 定期金に関する権利
- 保証期間付定期金に関する権利
- 契約に基づかない定期金に関する権利
その他の財産の評価方法
その他の相続財産については、次のような方法で評価します。評価時点はいずれも相続開始日です。
1.預貯金の評価
預貯金は元金に既経過利息を足した金額が評価額となります。
既経過利息とは、相続開始日に解約した場合に発生する利息のことです。例えば、相続開始日が2月7日で、銀行での解約手続きを3月7日に行った場合、預貯金の評価額は、元金と2月7日時点での利息を合計した額になります。
2.利付公社債の評価
公社債の評価額の求め方は、上場しているか、上場していない場合は公社債店頭売買参考統計値が公表されているかによって異なります。それぞれの評価額は、以下の計算式を用いて算定します。
①金融商品取引所に上場している場合
評価額=(相続開始日の最終価格+既経過利息-源泉徴収税相当額)×100円あたりの額面総額
また、相続開始日の最終価格が日本証券業協会の公表している平均値よりも高い場合は、平均値を用いて計算することになります。
②公社債店頭売買参考統計値が公表されている場合
評価額=(相続開始日時点の平均値 +既経過利息-源泉徴収税相当額)×100円あたりの額面総額
③その他の場合
評価額=(発行価格+既経過利息-源泉徴収税相当額)×100円あたりの額面総額
3.貸付信託の評価
貸付信託の場合は、下記の計算式を用いて評価します。
評価額=元本+既経過収益の手取額-買取割引料
4.証券投資信託の評価
証券投資信託は日々決算型投資信託、一般投資信託、上場投資信託によって評価方法が異なります。それぞれの評価額は、以下の計算式を用いて算定します。
①決算型投資信託
評価額=1口あたりの基準額 × 口数 + 再投資されていない未収分配金(A) − Aについて課される源泉所得税額に相当する金額 − 信託財産留保額および解約手数料
②一般投資信託
評価額=1口当たりの基準額 × 口数 – 相続開始日時点で解約請求等した場合に課される源泉所得税額に相当する金額 − 信託財産留保額および解約手数料
③上場投資信託
評価額=下記のうち最も低い金額×口数
- 課税時期の終値
- 課税時期の属する月の毎日の終値の月平均値
- 課税時期の全月の毎日の終値の月平均値
- 課税時期の前々月の毎日の終値の月平均値
5.ゴルフ会員権の評価
ゴルフ会員権は取引相場がある場合とない場合で評価方法が異なります。それぞれの評価額は、以下の計算式を用いて算定します。
①取引相場がある場合
評価額=相続開始日時点の取引相場×0.7
②取引相場がない場合
評価額=株式の評価によって計算した価額
6.宝石・貴金属の評価
宝石や貴金属は再購入した場合にかかる金額が評価額となります。
家庭用動産の場合は、再購入した場合にかかる金額から既経過年数に応じた減価償却金額を差し引いた額が評価額になります。
まとめ
今回は、相続税の概要、宅地や家屋の財産評価方法、株式の財産評価方法、みなし相続財産やその他の財産の評価方法などについて解説しました。
預貯金の場合は残高に対して相続税がかかるか判断しやすいですが、不動産(土地・建物)や株式などの場合は評価によって相続税が変わります。相続税がかかるかどうかを判断するためには、厳密な評価が必要です。
評価額の計算が難しくてスムーズに進まない場合は、専門家に相談することをおすすめします。