相続税の支払いが必要な場合・計算方法・控除について解説
相続税は、普段あまりなじみのない税金です。身近な方が亡くなって
「相続税は必ず払わなくてはならないものなのか」
「払わなければならないなら、いくらくらいになるのか」
など、わからないことが多くてお困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
相続税には基礎控除額が設定されており、遺産総額が基礎控除額を超えた場合にのみ支払いが必要です。つまり、遺産総額が基礎控除額以下である場合、相続税を支払う必要はないのです。また、基礎控除額を超えた場合でも、税額控除の対象である場合は減額されることもあります。
今回は、相続税とは何か、相続税を払わなければならない場合、相続税の計算方法、相続税の税額控除、相続税の申告方法と注意点などについて解説します。
【 目次 】
相続税とは
相続税とは、相続財産に対して課せられる税金のことをいいます。法定相続分だけではなく、遺言によって遺贈された財産に対しても課せられます。
相続人は日本国内に住所がある限り、相続財産がどこにあろうと相続した財産全てについて相続税を支払わなくてはなりません。ただし、日本国内に住所がない相続人については、相続財産のうち日本国内にある財産についてのみ相続税がかかります。
相続税の支払いが必要な場合とは
相続したからといって必ずしも相続税を支払わなければならないわけではありません。相続税には基礎控除額があり、遺産総額が基礎控除額を超えた場合のみ、支払う義務が発生します。
1.遺産総額が基礎控除額を超えると支払う義務がある
相続税には控除額があり、財産が以下の額を越えなければ相続税はかかりません。
基礎控除 = 3000万円 + 相続人の人数 × 600万円
例えば、ある被相続人の相続人が、その配偶者と子ども二人である場合、相続人の数は3人なので、3000万円+3×600万円の計算結果である4800万円が基礎控除額となります。遺産総額が4800万円を超えない限り、相続税の申告書を提出する必要も相続税を納める必要もないのです。
2.遺産総額の算定方法
相続税を支払う必要があるかどうかを判断するためには、遺産総額を算定する必要があります。遺産総額は以下の計算式を用いて求めます。
遺産総額=プラスの財産-マイナスの財産-葬儀代-非課税財産+相続開始前3年以内の贈与財産
非課税財産とは以下のものが該当します。
- 墓石や仏壇など、被相続人の弔いにかかった費用
- 死亡保険金のうち500万円×相続人の人数より少ない金額
- 死亡退職金のうち500万円×相続人の人数より少ない金額
- 国や地方公共団体、特定の公益法人等に寄付した財産
例えば、被相続人が残した財産が次のような場合を考えてみましょう。
- プラスの財産=預金1000万円、不動産4500万円
- マイナスの財産=負債3000万円
- 葬儀費用=300万円
- 墓石代=150万円
- 2年前に長男に500万円贈与
この場合の遺産総額は以下の計算式で求められます。
(プラスの財産=1000万円+4500万円) – (マイナスの財産=3000万円) – (葬儀代=300万円) – (非課税財産=150万円) + (相続開始前3年以内の贈与財産=500万円)= 2550万円
相続税の計算方法
遺産総額が基礎控除額よりも多い場合は、相続税を支払わなければなりません。
相続税は、相続人それぞれの相続額を求め、相続税法で定められた税率や控除額を元に計算します。
1.課税対象となる遺産金額の算出
相続税がいくらになるかを求めるためには、まず遺産総額を知る必要があります。相続税の課税対象となる遺産として、主に以下のような財産があります。
【課税対象となる財産】
- 土地や建物などの不動産
- 預貯金
- 株式
- 投資信託
- 公社債
- ゴルフ会員権やリゾート会員権
- 自動車や家具などの動産類
- 入院保険金
など
課税対象となる財産について、それぞれ財産評価を行い具体的な金額を求めます。評価方法が複雑なものもあるので、わからない場合は専門家に相談することをおすすめします。
課税対象となる財産の総額がわかったら、先ほど紹介した以下の計算方法で遺産総額を求めます。
遺産総額=プラスの財産-マイナスの財産-葬儀代-非課税財産+相続開始前3年以内の贈与財産
2.相続税の総額を計算
遺産総額が算出できたら、相続税を計算します。相続税の計算手順は以下の通りです。
①遺産総額から基礎控除額を引いて課税対象金額を求める
相続税は遺産総額から基礎控除額を引いた金額に対してかかります。相続税の基礎控除額は前述した通り、下記の計算式で求められます。
基礎控除 = 3000万円 + 相続人の人数 × 600万円
例えば、相続人が被相続人の配偶者と子ども二人で、遺産総額が8000万円である場合を考えてみましょう。この場合、上記の式に当てはめると、基礎控除額は4800万円となります。
相続税は、遺産総額から基礎控除額を引いた金額に対してかかるので、8000万円から4800万円を引いた3200万円が課税対象となります。
②相続額の総額を求める
相続税は相続人それぞれの相続額に対してかかるものです。そのため、相続税を算出する前に各自の相続額を正確に把握する必要があります。
民法で定められた相続割合に従う場合、配偶者が相続額の2分の1、子どもは残りの金額を人数分で按分した金額を相続することになります。
引き続き前項の例を使って計算してみると、下記のようになります。
【相続人が被相続人の配偶者と子ども二人で、遺産総額が8000万円である場合】
配偶者の相続額:3200万円 × 1/2=1600万円
子ども1の相続額:(3200万円-1600万円) × 1/2=800万円
子ども2の相続額:(3200万円-1600万円) × 1/2=800万円
③各相続額に税率を掛け、控除額を引く
各人の相続額がわかれば、それぞれの相続額に相続法で定められた税率を掛ければ相続税の金額が求められます。
税率は金額に応じて定められており、さらに金額に応じた控除額があります。国税庁の公式サイトに以下のような速算表が掲載されているので、この内容に従って計算しましょう。
【平成27年1月1日以後の場合】相続税の速算表
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円以上 | 55% | 7,200万円 |
前述した例(相続人が被相続人の配偶者と子ども二人で遺産総額が8000万円)の場合、上の表に照らすと、配偶者の相続額は「3000万円以下」に該当するので、税率は15%、控除額は50万円です。子どもらの相続額は「1000万円以下」になるので、税率は10%で控除額はありません。これらの数字を用いてそれぞれにかかる相続税を算出すると下記のようになります。
配偶者の相続分にかかる相続税:1600万円 × 15% – 50万円=190万円
子ども1の相続分にかかる相続税:800万円 × 10%=80万円
子ども2の相続分にかかる相続税:800万円 × 10%=80万円
④各相続税額を合計して相続税の総額を求める
各相続人分に対する相続税の金額を算出し、それらを足し合わせれば、相続税の合計金額を求められます。
上記の例の場合は、190万円 + 80万円 + 80万円で350万円が相続税の総額となります。
⑤実際に各人が支払うべき相続税は取得割合で按分する
最後に、実際に各人が支払うべき相続税の金額を計算します。これは、相続税の総額を各人の取得割合で按分して求めます。
上記の例の場合、それぞれの取得割合は配偶者が1/2、子どもらは1/4ずつとなるので、下記のような計算になります。
配偶者が実際に支払う相続税額:350万円 × 1/2 = 175万円
子ども1が実際に支払う相続税額:350万円 × 1/4 = 87万5000円
子ども2が実際に支払う相続税額:350万円 × 1/4 = 87万5000円
それぞれが実際に支払うべき相続税は、配偶者が175万円、子どもらはそれぞれ87万5000円ずつとなります。
相続税の税額控除
相続税には配偶者控除や未成年者控除など、いくつかの控除制度があります。場合によっては、相続税額を大幅に減額できることもあるので、どのような制度があるか把握しておきましょう。
1.配偶者控除
実は被相続人の配偶者の相続分には、相続税がかかることはほとんどありません。配偶者控除が適用されるためです。
配偶者控除とは、配偶者の相続した財産のうち、基礎控除額を差し引いた課税対象額が1億6000万円までなら相続税が免除される制度をいいます。さらに、1億6000万円を超える額を相続することになっても、配偶者の法定相続分、つまり相続財産の1/2の金額までであれば、非課税となります。
例えば、配偶者の相続金額が5億円であったとしても、全相続財産が20億円だった場合は、配偶者控除によって相続税はかかりません。この場合の配偶者の法定相続分は、2分の1の10億円であり、配偶者の相続金額は法定相続分よりも低いからです。
2.未成年者控除
相続財産取得時に日本国内に住所のある20歳未満の法定相続人には、未成年者控除が適用されます。控除金額は以下の計算式で求めます。
控除額=10万円 × (20歳 – 本人の年齢)
このときの年齢は満年齢とされています。満年齢とは、誕生日を基準に数える実際の年齢のことです。
例えば、被相続人が2月10日に亡くなり、3月3日に誕生日を迎える、現在14歳の法定相続人がいた場合、満年齢は14歳です。この場合の控除額は、10万円×(20歳 – 14歳)=60万円となります。
3.障害者控除
法定相続人の中に85歳未満の障害者がいる場合は、障害者控除が適用されます。障害者控除は下記の計算式で求めます。
控除額 = 10万円(特別障害者の場合は20万円) × (20歳 – 本人の年齢)
4.相次相続控除
10年以内に2回以上の相続が発生し、相続税を支払わねばならない場合には相次相続控除が適用されます。前回の相続時に支払った相続税額の一定割合を、次の相続税額から控除することができる仕組みで、1年につき10%の割合で減額されます。
例えば、前回の相続から1年後に再び相続が発生した場合は、(10年 – 1年)×10% = 90%の金額が控除されます。
前回の相続からの経過期間が短いほど、控除される金額は大きくなるのです。
5.外国税額控除
相続財産が日本国内ではなく外国にある場合は、国際間の二重課税を避けるために外国税額控除が適用されます。控除額は以下の計算式で求めます。
控除額=(贈与税額控除から相次相続控除までの税額控除適用後の日本の相続税額) × 在外財産の価値 ÷ (相続又は遺贈により取得した財産の価値のうち課税価格計算の基礎に参入された部分の金額)
6.贈与税額控除
相続開始前3年以内に被相続人から贈与された財産の価額は、相続財産に加算され、相続税の課税対象となります。しかし、贈与された財産について既に贈与税を支払っている場合は、二重課税を避けるために、既に納めている贈与税額を控除してもらえます。
相続税の申告方法と注意点
相続方法や遺産分割内容が決まり、各人の相続額も決まったら、いよいよ相続税を申告します。申告期限があり、相続開始から10か月以内に申告しなければならない点には注意が必要です。
1.相続税の申告方法
相続税の申告は準確定申告によって行います。以下の書類を揃えて提出します。
- 確定申告書
- 所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表
- 被相続人の源泉徴収書
- 被相続人の控除証明書
- 被相続人の医療費の領収書
- 委任状
委任状は還付金を代表者に一括受領させる場合に提出します。提出する場合は、代表者以外の相続人全員が記名、押印する必要があります。
2.申告の際の注意点
また、
まとめ
今回は、相続税とは何か、相続税を払わなければならない場合、相続税の計算方法、相続税の税額控除、相続税の申告方法と注意点などについて解説しました。
相続税の申告には期限があり、相続開始から10か月以内に申告手続きをしなければなりません。相続税を正しく算定するためには、財産調査、財産評価、遺産分割を行う必要がありますが、複雑なことも多いため、難航する場合もあるでしょう。
相続税についてわからないことが多くてスムーズに進まない場合や、期限に間に合いそうにないという場合は、専門家に相談することをおすすめします。